「経営」と「マネジメント」の違いをご存知ですか? 経営が不足しているという「日本の病」

AI要約

新書『世界は経営でできている』が人生のあらゆるシーンに経営が潜んでいることを示し、経営の本質を探求している。

経営を「価値創造志向の問題解決」と捉え、他者との対立を乗り越えて共同体を築く力と捉える。

『世界は経営でできている』はエッセイとしても読める書籍で、経営の概念を根本から再定義しようとしている。

「経営」と「マネジメント」の違いをご存知ですか? 経営が不足しているという「日本の病」

誰もが経営の現場を持っているというメッセージを発する新書『世界は経営でできている』がベストセラーになっている。気鋭の経営学者・岩尾俊兵氏は、仕事や家庭、恋愛、老後など人生のあらゆるシーンに経営が潜んでいることを鮮やかに示し、そのことに気づかないと、人生の不合理や不条理がもたらされつづけると主張している。

『論語』の手本となった周の文王の徳治政治を表す「経営」の語源からして、私は経営を企業やお金儲けだけのためにあるものとは考えておりません。実際に病院経営、学校経営、自治体経営、非営利組織経営などの言葉は普通に使われていますし、家庭経営、学級経営、自己経営もありうるでしょう。

では、あらためて「経営」とは何か。私は「価値創造志向の問題解決」と表現しています。具体的な文章で定義すると、「価値創造(=他者と自分を同時に幸せにすること)という究極の目的に向かい、中間目標と手段の本質・意義・有効性を問い直し、究極の目的の実現を妨げる対立を解消して、豊かな共同体を創り上げること」です。日常や人生には他者とのさまざまな対立や障害がありますが、誰も傷つけず/誰からも奪わずにそれを乗り越えていく困難な道を探すことこそが経営が持つ力だと思っています。

ただ、私の経営概念をコンパクトに表現してもなかなか伝わらない。なぜなら、経営=企業によるお金儲けという固定観念が世間に根強く広がっているからです。実際に「マネジメントと言った方が伝わるんじゃないか」という意見は草稿下読み段階ですらたくさんありました。しかし、「マネジメント」には馬を鞭打って手馴らしする行為から転じて「なんとか頑張る」という語源があり、源流にある他者やときに自分を鞭打つ感じがどうしても私は好きになれませんでした。そこで、すでに意味が固定化されつつある「経営」という言葉を解きほぐし再定義するきっかけになればと、『世界は経営でできている』を書きました。

『世界は経営でできている』は既存のビジネス書や経営書とは様相がまったく異なります。ところどころ笑える軽めのエッセイとしても読めるという評価も多いです。おそらく、この紹介記事では「なんだか小難しそう」と思われる方も多いでしょうけれど、書店で手に取って頂くと印象が全然違うと思います。行きつけの美容院の美容師さんも「人生ではじめて最後まで読めた本ですよ!」と興奮しながら他のお客さんに紹介して下さったりしておりました(笑)。

でも、最後まで読み通して頂くと、きっと経営の概念が変わる、あるいは変わるきっかけは得られるはずです。暇つぶし感覚でエッセイを読みながら「これって経営なの?」という疑問が湧いてきたなら、それはもう言葉の意味を再考しはじめているということです。これは、主体や主観に入り込む文学の手法でのみ実現可能なことで、文学と社会科学の掛け算の意義はここにあります。最初は自虐も多くしているのですが、最後にいくほど真剣な文体になっていくようにグラデーションをつけていて、読み終える頃には違う景色が見えるはずです。