ユニクロ柳井正が「自分の首を締めかねない」激安GUブランドを立ち上げたワケ

AI要約

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、ユニクロを世界的なアパレルブランドへ育て上げた。なぜ、同じく低価格志向で「共食い」のリスクもあるGU(ジーユー)を立ち上げたのか?果敢な経営判断の背景を読み解く。

市場においてまだ弱い立場にあり、または強力な競合が存在する状況下で、企業が新たな戦略を立案することは魅力的な挑戦である一方で、極めて成功のハードルが高いものだ。物量やリソースで圧倒するライバルに対しては、多少のアイデアを思いついてもすぐに模倣され、技術はチープ化してしまう。

我々の業界は日経帝国という強力な立場を持つメディアが主導しているが、新しいアプローチによって勝ち抜いた実例がある。それは日経グループに挑戦する姿勢を示し、他社にはできない独自の戦略を展開したことで成功を収めた。

ユニクロ柳井正が「自分の首を締めかねない」激安GUブランドを立ち上げたワケ

 ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、ユニクロを世界的なアパレルブランドへ育て上げた。なぜ、同じく低価格志向で「共食い」のリスクもあるGU(ジーユー)を立ち上げたのか? 果敢な経営判断の背景を読み解く。(イトモス研究所所長 小倉健一)

● 「日経帝国」を突き崩せ

 市場においてまだ弱い立場にあり、または強力な競合が存在する状況下で、企業が新たな戦略を立案することは魅力的な挑戦である一方で、極めて成功のハードルが高いものだ。物量やリソースで圧倒するライバルに対しては、多少のアイデアを思いついてもすぐに模倣され、技術はチープ化してしまう。

 私が生息していた、そして今も片足を突っ込んでいる業界は「日本の経済メディア」というフィールドである。ここでは日経新聞や日経BP(日経ビジネス)といった日経帝国が、業界のトップとして君臨してきた。

 紙の雑誌に関しては、かつて私が所属していたプレジデントがこの日経帝国に挑戦する構図となっていた。プレジデントは月2回の刊行で、編集部には約20名しか部員がいなかった。他方、日経は国内で1350人、海外で173人の記者・編集スタッフを抱え、社員数は3054人にのぼるという。

 同じことをしていてもプレジデントは勝てないため、読者層を書店・コンビニで雑誌を購入する人々に絞り込み、内容も日経の読者を意識しつつも、日経にはできないことに特化する戦略を採用した。

 日経の読者は日経新聞や日経ビジネスを主に配達で受け取っており、書店やコンビニでの購入者は少ない。書店やコンビニでの売り上げを伸ばすには、まず書店やコンビニで売れているものを徹底的に研究することから始めた。

● 経済メディア大戦争!

 他の雑誌でセールス特集が売れていればセールス特集を、話し方特集が売れていれば話し方特集を展開するという具合である。日経グループは、経営者には経営について、話し方特集には話し方の専門家に聞くという紙面作りの傾向がある。

 これに対し、プレジデントは有名経営者に話し方のコツを語らせるというアプローチをとった。日経が多くの経営者に広く意見を求める傾向がある一方で、プレジデントは人気のある経営者に焦点を絞ってインタビューした。

 この違いは、おそらく日経が巨大な組織であるがゆえに、縦割りの強い組織構造を持つことに起因していると考えられる。プレジデントは、こうした縦割り構造にとらわれない柔軟な特集を組むことで戦いを挑んだ。

 その結果、紙の雑誌というカテゴリーでは日経ビジネスを抜いて一番の地位を獲得するに至った。近年では、無料のニュースメディアとして日経帝国に挑戦したのが東洋経済オンラインである。

 彼らがどこまで日経と競い合っている意識を持っていたかは不明だが、一般的に高付加価値とされる経済メディアが「無料」で価値あるニュースを提供し続けたことは、業界に衝撃を与えた。