拝金主義に嫌気をさしたファンは市民クラブを創設「観戦をみんなで楽しむ」地域社会に根差したチームを運営【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑦】

AI要約

ロシアの富豪アブラモビッチ氏のオーナー就任に伴いチェルシーが躍進する一方で、マンチェスター・ユナイテッドは新たな騒動に巻き込まれる。

マンチェスター・ユナイテッドの買収計画に対するファンの抵抗、グレーザー家の「レバレッジ・バイアウト」手法、そしてクラブの経営戦略が明らかになる。

グレーザー家の買収により、マンチェスター・ユナイテッドは負債を抱え、最も裕福なクラブから負債が多いクラブへと転落した。

拝金主義に嫌気をさしたファンは市民クラブを創設「観戦をみんなで楽しむ」地域社会に根差したチームを運営【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑦】

 ロシアの富豪アブラモビッチ氏のオーナー就任に伴いチェルシーが躍進するのを尻目に、マンチェスター・ユナイテッドは新たな騒動の渦中にあった。名将アレックス・ファーガソン監督が率いるチームは毎年優勝争いを繰り広げ、BスカイBの買収構想がファンの反対で頓挫したことを反省の糧にクラブはファンとの対話を重視するようになっていた。しかし、その裏側で「メディア王」マードック氏とは別の米国人実業家マルコム・グレーザー氏を中心とした一族が、マンチェスターUの買収を水面下で進行させていた。(共同通信=宮毛篤史) 

 ▽成功あてに買収資金を前借り

 ファンは今回の買収計画にも強い拒否反応を示した。というのも、グレーザー家が驚愕のスキームを検討していることが明らかになったためだ。それは、クラブの資産を担保とし、買収資金の大部分を金融機関から借りる「レバレッジ・バイアウト」という手法だった。

 マルコム氏はやり手の実業家だった。その有能さとしたたかさを示す逸話が、米プロフットボール(NFL)のタンパベイ・バッカニアーズの新スタジアム建設だ。マルコム氏は1995年のオーナー就任後、スタジアムの設備に不満を表明。フロリダ州タンパからの本拠地移転を地元自治体にちらつかせ、建設費の支援を引きだすことに成功した。財源となったのは地方税。負担を背負わされたのは地元市民だった。

 その一方でグレーザー家は濡れ手に粟で新スタジアムを手にした。米フォーブスによると、1億9200万ドル(当時のレートで230億円)で買収したチームの価値は42億ドルに拡大した。この価値のうちスタジアムは4億4400万ドル分を占めるという。 

 ▽最も裕福なクラブが「最も負債の多いクラブ」に転落 

 一族が目を付けたのは「世界一のサッカークラブ」と称されたマンチェスターUのブランド力だった。「ポケットマネー」を投下し、チェルシーを強豪クラブに導いたアブラモビッチ氏とは対照的に、クラブを「金のなる木」に見立てた。

 「グレーザー家はマンチェスター・ユナイテッドの敵だ!」。本拠地オールド・トラフォード周辺でファンは抗議デモを展開した。クラブも反対の姿勢を示し、株主に賛同しないように呼びかけたが、グレーザー家は一枚も二枚も上手だった。

 大株主を次々に説き伏せて2005年に75%もの株式を取得し、経営の支配権を得ることに成功した。買収額は約7億9000万ポンド(当時のレートで約1550億円)。100年近く無借金経営を続けてきたクラブは5億2500万ポンドもの多額の負債を抱えることになり、世界で最も裕福なクラブは「最も負債の多いクラブ」の一つに転落した。