台湾・台北で注目のアートスポットを探訪──新台北美術館から「TAO ART」まで

AI要約

台北周辺で急速にアートシーンが盛り上がっており、新たな現代美術館やギャラリーが次々と誕生している。

台北市立美術館では国際的なアーティストの個展や革新的な展示が行われており、台湾出身の作家の表現も紹介されている。

他の注目スポットには、アーティストのエコシステムを形成する施設や先鋭的なアートギャラリー、新北市美術館などがある。

台湾・台北で注目のアートスポットを探訪──新台北美術館から「TAO ART」まで

台湾のアートシーンが熱い。新台北市や桃園市という台北近郊に、相次いで新たな現代美術館やギャラリーが生まれている。今回は台北で注目のアートスポットを紹介する。

台湾から生まれる近現代アートを研究・発信・管理し、並行してグローバルな表現を台湾で伝える役割を担う台北市立美術館が誕生したのは、1983年のこと。日本のメタボリズム建築にも影響を受けたカオ・エルパン(高而潘、KAO Er-pan)設計による建物に足を踏み入れると、3階までが吹き抜けの天井高が快適なロビー空間が出迎えてくれる。

1階の展示室で開催されるのは、国際的に活躍するアーティストの個展をはじめとする大規模展だ。9月1日まで開催されているのは、木炭やパステルによる素描画を部分的に描き直しながらコマ撮りし、撮影した「動くドローイング」をアニメーションで見せるウィリアム・ケントリッジ展。原画と映像を合わせて展示するほか、文化大革命をモチーフに中国のアフリカに向けての経済進出をアイロニカルに描いた作品、動きを感じさせる立体作品の数々に空間作品など、日本では発表されたことのない手法の作品も展示されている圧巻の規模だ。

近年ではこちらの展示室で、塩田千春や台湾出身の映画監督エドワード・ヤンの個展、パトリシア・ピッチニーニらによる「スーパーナチュラル」な彫刻を集めた企画展などが開催されてきた。

そして2階展示室では、同館収蔵作品を軸に台湾出身作家の表現を紹介するのだが、その規模も見応えがある。同じく9月1日まで開催中の個展は、ス・ユジェン(許雨仁、HSU Yu-Jen)という1951年生まれの作家のキャリアを辿る回顧展。

書を彷彿とさせる単色の絵画に始まり、アメリカでの滞在を断続的に重ねて油彩を用いたペインティング作品も並行して続けた表現の変遷を辿ると、洋の東西の表現を自由に行き来しながら自身の表現言語を確立してきた様子がリアルに伝わってくる。日本に紹介されていない魅力的な作家が、身近な台湾にも無数にいるのだろうと想像できる。

■台北市立美術館 Taipei Fine Arts Museum

住:No. 1881, Sec. 3, Zhongshan N. Rd., Zhongshan Dist., Taipei City

TEL:+886 2 25957656

URL:https://www.tfam.museum/

■半世紀かけてクリエイターのエコシステムに着手

1953年に台湾で創業した「國際牌(グオジパイ)」は、のちにパナソニック台湾となる家電メーカー。創業者のホン・チエンシュアン(洪建全、HONG Chien-Chuan)は1971年、いまだ戒厳令が敷かれた状況の台湾で、教育と文化の発展を目指し、ホン・ファウンデーション(洪建基金會)を設立した。目指すべきは、クリエイターのエコシステムを形成すること。アーティストの制作・発表の場を設け、批評家が文章を発表できる書籍やカタログを編纂し、フォーラムなどを開催して創作に携わる人々の交流を促す。コンペティションやアートフェアとの共同プロデュースなども進めるなど、同時並行でプロジェクトを展開。支援作家が発表するスペースでは、およそ月1本のペースで個展が開催されており、台湾を中心に若手作家の意欲的な表現と出合える場となっている。

■洪建基金會 Hong Foundation

住:12F, No.9, Sec. 2, Roosevelt Rd., Taipei City

TEL:+886-2-2396-5505

URL:https://hongfoundation.org.tw

■ポップとオーセンティックを行き来する

台湾にはおよそ400軒、台北だけでも200軒ほどのアートギャラリーがあるといわれているが、現代アートにおける有名ギャラリーのひとつが、イーチ・モダン(亞紀画廊、EACH MODERN)だ。ディレクターのファン・ヤジ(黄亞紀、HUANG Ya-Ji)は、批評家・キュレーターとして10年ほど活動し、台湾の戦後から現代にかけてのアーティストのプロモートすべく2018年に開廊した。また、ファンは今年2回目を迎えたアートフェア『Tokyo Gendai』で出展者を審査するセレクションコミティを務めるなど日本とも関わりが深く、日本人作家の紹介も積極的に行っている。例えば、写真家の森山大道や「もの派」の菅木志雄、新たな平面表現を模索する鈴木ヒラクやShohei Takasakiなど。台湾の気鋭の作家はもちろんのこと、評価の定まった作家も含めた台湾現代アート史をアジアの視点から触れられる貴重なギャラリーだ。

■亞紀画廊 EACH MODERN

住:3F, No.97, Sec. 2, Dunhua S. Rd., Da’an Dist., Taipei City

TEL:+886-2-2752-7002

URL:https://eachmodern.com

■先鋭的なコレクションで台北アートシーンを刺激する

幼い頃から実業家でコレクターの父親の影響でアートと親しんでいたヴィッキー・チェン(陳薇捷、Vicky Chen)が、2020年に父親と共同でオープンしたアートスペース。作品の展示販売を行うコマーシャルギャラリーではなく、自身のコレクションを展示し、またアーティストを招いて新たな表現へと促し、個展を開催する空間として機能している。世界各地のアートフェアやギャラリーを訪れて購入したバラエティに富んだ所有作品が、建築家の青木淳が中国の庭園と風が抜ける回廊にインスパイアされて設計した空間に展示される。ホワイトキューブの展示室ではおよそ2ヶ月に1本のペースでアーティストを招いて企画展を行い、よりプライベートな空間を思わせる奥の部屋は、レセプションなど特別なタイミングで来場者に公開される。企画展も魅力的だが、レセプションなどのタイミングを狙いたいものだ。

パリとロンドンを拠点とする英国人アーティスト、オリヴァー・ビアの台湾初個展『Beginner’s Luck』(2024年5月8日~7月13日)より。

■TAO ART

住:8F, No.79-1, Zhouzi St., Neihu Dist., Taipei City

TEL:+886-2-8797-6939

URL:https://www.taoartspace.com

■台北のベッドタウンに巨大な美術館がオープン

新北市美術館の設計は、台湾の建築家クリス・ヤオ。地下3階、地上8階の巨大な建物でありながら、不規則な管状の建材を縦向きに平行に並べることで、空間に溶け込むような錯覚を演出。

台北市のベッドタウンである新北市。陶器の産地という伝統のある鶯歌(インガー)というエリアに、昨年竣工したのが新北市美術館(New Taipei City Art Museum)だ。グランドオープンは2年後を予定しているが、すでにプレ企画として『IN TERMS OF SPORT』と題する企画展が開催されており、ピロティに点在する15以上の展示室でスポーツにまつわる現代アート作品を楽しむことができる。台湾の伝統スポーツ、結果を競い合うスポーツ、勝負がつかない競技、性的マイノリティが表現する身体表現など、異なる角度からスポーツに焦点を当て、映像や立体から体験型の作品までが色とりどりに紹介されている。

グランドオープンを迎えた暁には、8フロアに5つの大展示室が完成し、同時開催でローカルなアーティストの個展から大型企画展までが開催される予定だ。台北からも地下鉄で直通しているため、アクセスもよく、台北でアートを楽しみたければ覚えておきたい美術館だ。

■新北市美術館 New Taipei City Arts Museum

住:No. 300, Guanqian Rd., Yingge Dist., New Taipei City

TEL:+886 2 25957656

URL:https://www.tfam.museum/