「未知の魅力的なものを世の中に伝えたい」 J.フロント リテイリング最年少社長が描く“価値共創リテーラー”の真髄

AI要約

JFRは2024年3月から新中期経営計画をスタートさせ、2030年の将来像を描きながら施策を決定している。

コロナ禍の変化や為替、株価の動きにより、議論過程でマルチサービスリテーラーから新しいリテーラーの姿に転換した。

旧態依然としたリテーラーではなく、新しいリテーラーの姿を作り上げることが目指されている。

 大丸松坂屋百貨店やパルコを傘下に持つJ.フロントリテイリング(以下JFR)では、2024年3月から3カ年の新中期経営計画をスタートさせている。円安下での訪日外国人増加に加え、株高による富裕層の旺盛な消費を追い風に、大手百貨店各社の業績は目下好調だが、JFRは今後の成長戦略をどう描いているのか。そこで前編に続いて、48歳と同社の最年少トップに就いた小野圭一社長のインタビューをお届けする。後編となる今回は、同社が目指す「価値共創リテーラー」の意義や狙いなどについて話を聞いた。(後編/全2回)

■ コロナ禍で議論した新中期経営計画の「主眼」

 ──小野さんは2022年5月から経営戦略統括部長に就き、今年(2024年)3月に始動した3カ年の新中期経営計画を取りまとめる立場でした。そして社長になって新中計を実行に移すべく陣頭指揮を執っているわけですが、JFRの将来像をどのように描いていますか。

 小野圭一氏(以下敬称略) 新中計の骨格を決める起点はバックキャストであるべきとの考えから、先に2030年のわれわれの在るべき将来像を論議し、そこを固めるところからスタートしました。

 2022年度からの1年間でまず2030年の在るべき姿を決め、2023年度からの1年で、そこに向けた最初の3年の施策内容を詰めていきました。議論の過程で少し難しかったのは、コロナ禍が収束に向かい始めて局面が次第に変わっていったことです。

 コロナ禍で壊滅的な打撃を受けた大底の状態から、少しずつ各店の稼働が上がり始め、2023年5月にコロナ感染症が季節性インフルエンザと同じ5類の分類に移行した後、中国からの訪日観光客も解禁になるという流れがありました。経営計画の組み立てをしている中で足元の事業環境がかなり変わってきたわけです。

 ──その後、為替も一段と円安に動き、株価も上がるというトレンドで現在に至っていますが、新中計の内容で軌道修正した点もあるのでしょうか。

 小野 われわれが目指した方向性をさかのぼると、最初に複数の小売事業ブランドを展開する「マルチリテーラー」があり、その後「マルチサービスリテーラー」に変更しています。新中計の議論は当初、マルチサービスリテーラーとして、デベロッパービジネスを含め、百貨店の周辺事業をしっかり伸ばすことに主眼を置くべきという意見が多かったのです。

 それ以降はコロナ感染症の5類移行を含む外部環境の変化を経て改めて議論し、われわれの強みはやはりリテールにあるという再認識に至りました。ただし旧態依然としたリテーラーではなく、新しいリテーラーの姿を作っていくことに行き着いたわけです。