タイの自動車産業で「中国勢」の存在感が急上昇 EV最大手「BYD」の工場竣工、他社も続々と進出

AI要約

中国のEVメーカーがタイに工場を建設し、競争が激化している。タイ政府のEV普及政策も中国メーカーの進出を促している。

中国の自動車メーカーだけでなく、日本メーカーの競争優位も揺らいでいる状況だ。

タイはASEAN最大の自動車産業地であり、EV市場においても注目を集めている。

タイの自動車産業で「中国勢」の存在感が急上昇 EV最大手「BYD」の工場竣工、他社も続々と進出

 中国のEV(電気自動車)最大手の比亜迪(BYD)は7月4日、タイ東部のラヨーン県に建設した乗用車工場の竣工式典を開催した。この工場の生産能力は年間15万台。式典に出席したBYD董事長(会長に相当)の王伝福氏は、(工場のフル稼働時には)地元に1万人を超える雇用をもたらすとの見通しを語った。

 タイ工場はコンパクトEV「ドルフィン」の組み立てからスタートし、将来は複数車種のEVを生産する計画だ。王氏はさらにPHV(プラグインハイブリッド車)も導入したいと意欲を述べた。

■広汽埃安や奇瑞汽車も

 ここ数年、中国の自動車メーカーは先を争うようにタイに工場を建設している。BYDに続き、中国EV市場で第2位の広汽埃安(広汽アイオン)も年間生産能力5万台の工場を7月中旬に完成させる。新興EVメーカーの哪吒汽車(ネタ)は、同2万台の工場をすでに2023年11月に稼働させた。

 国有大手の上海汽車集団(上汽集団)や民営中堅の長城汽車(グレートウォール)のタイ進出はずっと早く、前者は2014年、後者は2021年から現地生産を開始している。進出ラッシュは今後も続き、国有大手の長安汽車や国有中堅の奇瑞汽車などがEV工場の建設計画を進めている。

 タイはASEAN(東南アジア諸国連合)最大の自動車産業の集積地であり、同時にASEAN第3位の自動車市場でもある。ASEAN自動車連盟のデータによれば、2023年のタイの自動車生産台数は183万5000台と、ASEAN全体の4割超を占めた。

 それだけではない。タイ政府は2021年、EVの普及と関連産業の育成を目指す政策をASEANの中で最も早く打ち出し、2030年の自動車生産に占める(EVを中心とする)ゼロ・エミッション車の比率を30%に引き上げる目標を掲げた。

 この政策を推進するため、タイ政府はEV購入者への補助金や海外のEVメーカーによる直接投資への優遇措置を導入。それが中国メーカーのタイ進出ラッシュの呼び水になった。

 だが、中国メーカーの一斉進出により、中国の国内市場の過当競争がそのままタイに持ち込まれる懸念もある。

■日本メーカーの優位に揺らぎ

 「地場のEVメーカーが存在しないか、存在しても競争力が弱い国では、(EV市場での競争が)中国メーカー同士の争いになることが往々にしてある。タイはその典型例だ」