【鉄道とは何か？】技術面からその全体像を一言で表すと「列車ダイヤに従って陸上輸送を実現するシステムである」

　鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人々の知的好奇心を刺激してくれる。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第20回は「システムとしての鉄道」について。

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　これまでは、車両や線路など、鉄道を構成する「部分」に使われている技術を紹介してきました。そこで今回は、あえて視点を広げて、鉄道の「全体像」に迫ってみましょう。

　鉄道の「全体像」をとらえることは、むずかしいです。なぜならば、鉄道は多面体のようなものであり、角度によって見え方が変わるからです。

　ただ、技術という側面でその「全体像」の特徴を一言で表すと、「鉄道は列車ダイヤに従って陸上輸送を実現するシステムである」と私は考えています。

　こう書くと「わかりにくい」と感じる方が多いでしょう。とくに最後の「システム」という言葉はイメージしにくいかもしれません。

「システム」は、「システムキッチン」や「バス（浴室）システム」のように、わたしたちの家庭に入り込んでいる設備の名前に使われている言葉なので、「どこかで聞いたことがある」と感じる方は多いかもしれません。ただ、その意味は一般にはあまり知られていません。

　そこで今回は、時計やオルゴールを例にして、「鉄道はシステムである」ということを説明します。

　まず、時計に目を向けてみましょう。時計にはさまざまな種類がありますが、ここでは多くの方が動きをイメージしやすいアナログ時計（機械式時計）を例に挙げます。

　アナログ時計は、歯車をはじめとする多くの部品があります。また、それらはたがいに連動し、時を刻み、現在の時刻を針の動きで示すという「機能」を果たしています。

　次に、オルゴールに目を向けてみましょう。オルゴールにもさまざまな種類がありますが、ここではその代表例であるシリンダーオルゴールを例に挙げます。

　シリンダーオルゴールは、シリンダーと呼ばれる円筒が回転するオルゴールで、箱を開けている間は同じ楽曲を繰り返し演奏する構造になっています。これは、シリンダーについたピンが櫛形の金属板に当たると音が鳴り、シリンダーが１回転すると1曲の演奏が終わるように設計されているからです。

　これは、先ほど紹介したアナログ時計と同様に、シリンダーをはじめとする多くの部品があります。また、それらは、たがいに連動し、楽曲を演奏するという「機能」を果たしています。

　最後に、鉄道に目を向けてみましょう。鉄道には、それを支える多くの施設や設備があるだけでなく、その運用やメンテナンスを行う職場があり、そこで働く人がいます。また、これらは、たがいに連携し、「列車ダイヤ」と呼ばれる輸送の計画を示す図表にしたがって列車を動かし、人や物を運ぶという「機能」を果たしています。

　こう見ると、時計・オルゴール・鉄道には、多くの要素が連動または連携して、目的とする「機能」を果たしているという共通点がありますね。

　また、鉄道で使われる列車ダイヤは、曜日や月などによって変更されます。そのことを除けば、鉄道では基本的に毎日列車が規則正しく動き、日々の輸送を繰り返しています。

　この点は、同じ楽曲の演奏を繰り返すオルゴールと似ています。

　オルゴールのシリンダーと、鉄道の列車ダイヤは、どちらもコンピュータにおけるプログラムのような働きをしています。つまり、シリンダーと列車ダイヤは、どちらも目的の「機能」を実行するための計画を刻み込んだものであり、構成する多くの要素を動かすための指令を出す役割を果たしているのです。