物流危機は「M&A」で解決できるのか? 「日本企業は買収下手」説の実態とは? 成功と失敗の分かれ目を探る

AI要約

物流業界におけるM&Aが注目される中、2024年問題によるトラック不足が再編の背景にある。

特にC&FロジHDの事例では、低温物流におけるトラック不足が問題となっている。

この状況下で大企業間の争奪戦が繰り広げられている。

物流危機は「M&A」で解決できるのか? 「日本企業は買収下手」説の実態とは? 成功と失敗の分かれ目を探る

 最近、物流業界における企業の合併・買収(M&A)が大きな話題となっている。代表的なところでは、

・セイノーHD(HDはホールディングスの略)による三菱電機ロジスティクス(非上場)の買収

・佐川急便の持ち株会社であるSGHDによるC&FロジHDの買収

・ロジスティード(旧・日立物流)によるアルプス物流の買収

などである。なお以上のケースには株式公開買い付け(TOB)のほか、さまざまなスキームでのM&Aを含むが、単純化のため以下では「買収」と記載することをあらかじめお断りしておく。

 さて、このように物流業界に再編の波が襲っている理由のひとつは、いうまでもなく、「2024年問題」を契機としたトラック不足である。読者には周知のことだと思うが、2024年問題は端的にはドライバーの総労働時間規制の強化にともなう諸問題であり、この規制強化により、トラック不足に拍車がかかっているというのが基本的流れである。この影響で目下、

「輸送能力確保」

がトラック会社の経営課題に浮上しており、これが物流業界で再編が急速に進展する一因となっている。

 一方、昨今のM&A事例を見ると、必ずしも物流危機の解決に資するものばかりではない。そもそも、業界内で再編が進展している背景には、より複雑な要因が絡み合っているし、同業の運送会社同士を統合する単純なM&Aで解決できるほど、問題は単純でない。そこで本稿では、

・物流業界におけるM&Aの背景

・今後の物流危機解決に向けた展望

を考えてみたい。

●2024年問題によるトラック不足

 M&Aが進展している背景要因を、事例を交えながら解説していきたい。最初に取り上げたいのは、冒頭にも触れた2024年問題と物流危機である。前項で例示したM&A事例のうち、特に物流危機の影響を色濃く反映しているのは、C&FロジHD(東京都新宿区)の事例だろう。

 C&FロジHDは名糖運輸やヒューテックノオリンなどを傘下に置く持ち株会社である。名糖運輸は、その名前から推察できるとおり、「メイトー」ブランドのアイスクリームで知られる協同乳業との関係が深い。ヒューテックノオリンも冷凍食品等を担う同じく低温物流大手である。両社ともに低温物流が得意な大手物流会社であり、会社の成立の経緯もあって、農林水産業分野の大手荷主と親密な関係を築いている。

 このように、日本の食卓を支えるコールドチェーンの一翼を担っているといってもよい同社だが、その低温物流分野というのは、他分野以上にトラック不足の問題が顕在化している。その理由はいくつかあるが、ひとつは

「冷蔵倉庫の特性」

だ。常温の倉庫ではバース上にあらかじめ荷ぞろえした貨物を並べておき、到着したトラックに引き渡すのに対し、一般的に広い荷さばきスペースを取れない冷蔵倉庫では、トラック到着後に荷ぞろえ作業を行うケースが多い。また、冷蔵倉庫は高度成長期に建てられた古い倉庫の割合が高く、今どきの大型物流施設と比べて導線設計などに課題を抱えるものも目立つ。

 以上のような倉庫側の要因に加えて、バンタイプが主流の冷蔵車はウイング車と比べて

・荷役効率が低い

・手積みの貨物が多い

といったトラック側の要因も大きい。いずれにせよ低温物流ではドライバーの長時間待機や荷役時間の短縮が難しく、そのため厳しいドライバー不足に見舞われているのである。

 C&FロジHDを巡っては、セイノーHDとAZ-COM丸和HDという大企業が繰り広げた争奪戦が大々的に報じられたわけだが、C&Fロジというやや地味ともいえる企業の奪い合いが生じた理由は、同社が優良な荷主を抱えているということに加えて、以上のような低温物流におけるトラック不足の影響を抜きにしては語れない。