トランプ氏再選で揺らぐ「EV市場」 深まる米中対立、開発出遅れの日本車メーカーはむしろ救われるのか?

AI要約

トランプ氏が再選した場合、自動車業界に大きな影響が及ぶ可能性が高まる。

トランプ氏は環境規制を緩和し、日本の自動車メーカーに対する影響も考慮する必要がある。

EV販売で出遅れた日本メーカーは、トランプ氏の政策によって規制対応の猶予を得るかもしれない。

トランプ氏再選で揺らぐ「EV市場」 深まる米中対立、開発出遅れの日本車メーカーはむしろ救われるのか?

 バイデン氏とのテレビ討論会、選挙集会の銃撃事件を経て、トランプ氏が11月の米大統領選で勝利する可能性が高まった。トランプ氏再選があれば、自動車業界に大きな影響が及ぶ。

 EV(バッテリー式電気自動車)に否定的なトランプ氏再選は、日本の自動車業界にプラスと考えられるが、それだけではない。

「プラス・マイナス両面」

を見る必要がある。

 米国第一主義を掲げるトランプ氏は

「(地球温暖化対策を進める)パリ協定から離脱する」

「対中関税を60%超に引き上げる」

「ウクライナ支援をやめる」

「(法人減税・インフラ投資拡大など)景気刺激策を進める」

など多数の公約を掲げている。

 トランプ氏は果たして再選後、どこまで公約どおりに政策を実施するだろうか。本稿ではそれは議論しない。トランプ氏がすべて公約を実現することを前提に、日本の自動車業界に及ぶ影響を考える。

 トランプ氏公約で、自動車業界に影響が特に大きいと考えられるのは、

・パリ協定離脱

・対中関税引き上げ

・日本製鉄によるUSスチール買収阻止

である。まず、その影響を考える。

 トランプ氏は、脱炭素に否定的で、石油・石炭・液化天然ガス(LNG)産業を擁護する姿勢を鮮明にしている。公約どおりならば、大統領に返り咲いたら、米国はパリ協定から即座に離脱する。

 米国は、トランプ氏が最初に大統領となった2017年にパリ協定から離脱を宣言したが、2021年に大統領となったバイデン氏が復帰を決めた。大統領が代わるたびに、米国はパリ協定からの離脱・復帰を繰り返すことになる。

 トランプ氏は、パリ協定離脱とともに、米国の温室効果ガス(GHG)規制の緩和に進むのが確実だ。GHG規制は、米国内で販売される自動車の燃費の改善を義務づけるもので、それを達成するために、自動車メーカーは新車販売に占める

「ゼロエミッション車(ZEV。〈EV、燃料電池車、プラグインハイブリッド車〉)」

の販売比率を急速に引き上げなければならない。米国政府は2030年までに新車販売に占めるEV比率を50%に引き上げる目標を掲げているが、その達成の行程を示すのがGHG規制だ。トランプ氏はそれに待ったをかけることになるだろう。

 環境規制がもっとも厳しいカリフォルニア州では独自のZEV規制(ゼロエミッション車の販売比率を高めることを義務づける規制)を定めているが、トランプ氏が再選すれば、その有効性をめぐり再び法廷闘争が起こる可能性もある。

 トランプ効果は、既に一部現れている。バイデン政権の下、米国環境保護庁は2024年3月にGHG規制の一部緩和を発表している。大統領選が近づくにつれてトランプ氏との競争上、バイデン政権でも規制緩和に配慮する必要が生じたためと考えられる。トランプ氏は、そこからさらに大幅な緩和を進めるだろう。

 北米でのEV販売で出遅れた日本メーカーは、GHG規制への対応が間に合わずに多額のペナルティーを支払うことになる可能性があるが、トランプ氏による規制緩和があれば、規制対応に猶予を与えられることになる。