F1に未来はあるのか? 資金力と分配金に蠢く大きな課題、終わりなき「チーム数増加」のジレンマとは

AI要約

F1の基本的な構造と参入障壁の高さについて述べられている。資金力と競争力の関係、スポンサーマネーによるチームの存続、財務基盤強化の必要性などが説明されている。

コンコルド協定の改定による分配金の増加、予算制限の導入、チームの資産価値の上昇について言及。安定性確保と競争力維持のための取り組みが示されている。

現在の安定的な10チーム体制と11チーム目の影響、フェラーリ出身のステファノ・ドメニカリのトップ就任による運営側とチーム側のバランスについて説明。現状維持とチーム数拡大の葛藤が描かれている。

F1に未来はあるのか? 資金力と分配金に蠢く大きな課題、終わりなき「チーム数増加」のジレンマとは

 本連載「開かれたF1社会とその敵」では、F1の歴史と閉鎖的な構造に焦点を当て、変化の可能性を探る。F1の成長とともに形成された独自の「F1ムラ」における利益と利他の対立、新規チームの参入の難しさ、そしてオープンな社会への道筋を検証する。F1の未来と進化に向けた具体的な可能性を示し、閉鎖的な構造からの脱却戦略を提案する。

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 現在、F1選手権は10チーム、20人のドライバーで構成されている。世界最高峰を争うだけに技術レベルも高く、選ばれた人だけがドライバーになれる。しかし、参入障壁が高いため、どうしても閉鎖的な社会になってしまう。これはF1関係者にとってもファンにとっても悩ましい問題である。

 F1の基本的な構造は、世界最先端の技術を駆使し、膨大な資金を必要とする競技であるということだ。人材も競争力に影響するが、機械を介する以上、資金力と競争力はかなり比例する。資金力のないチームが一流デザイナーを雇ってもチャンピオンになるのは不可能に近い。この高コスト構造が大前提であることを頭の片隅に入れておきたい。

 F1チームはこのような環境のなかで運営されている。分配金システムはあったものの、長い間、チームはスポンサー収入によって支えられてきた。チームの存続はスポンサーマネーにかかっていた。

 つまり、かつてのF1は、新規チームの参入と撤退の繰り返しに加え、最近ではリーマンショック前後が非常に厳しい時期だった。ホンダがロス・ブラウンに1ポンドで売却した話は有名だが、極端な例だとしても、ホンダの経営陣は、現地工場やその他の資産をタダ同然で売却しても構わないと考えていたともいえる。

 いずれにせよ、チームオーナーにとって財務基盤をいかに強化するかが最大の課題だった。

 このような背景から、コンコルド協定の改定交渉のたびに各チームは分配金の増額を要求し、F1も安定性を重視してチームの意向を受け入れた。徐々にチームの分配金依存度は高まり、不安定なスポンサーマネーへの依存度は低下していった。2021年からは運営を容易にし、チーム間の競争力の差を縮めるために予算制限も設けられた。

 ウィリアムズは2020年に1億5200万ユーロ(当時のレートで約190億円)で売却されたが、2023年7月の米経済誌『フォーブス』の報道によると、2023年のウィリアムズの推定収益は1億6000万ドル(約223億円)、企業価値は7億2000万ドル(約1000億円)となっており、これは非常に高い数字である。

 それを考えると、オーナーとしては売却を考える必要はないが、ウィリアムズを買収するとしたら1000億円以上を提示しなければならない。2020年からのわずか4年間で、その価値は

「5.2倍」

になっており、ホンダ時代とは雲泥の差だ。財務上の大きな課題もほとんどない。

 2017年以降は10チームで安定しているが、11チーム目になると自動的に分配金が希薄になる。保証金を高く設定することで希薄化を補う仕組みはあるが、チームオーナーとしてはある意味、一時的なボーナスにすぎない。長期的な視野に立てば、今後より希薄な賞金が分配されることを懸念するのは当然だ。そう、“現状維持”を望んでいるのである。

 また、2021年からはフェラーリのチーム代表だったステファノ・ドメニカリがフォーミュラワン・グループのトップに就任している。F1の運営側ではあるが、リーマンショック前後の厳しいチーム運営を乗り越えてフェラーリを動かしてきた人物だ。チーム数の拡大を望む国際自動車連盟(FIA)との関係では、ドメニカリはチーム側に立っている。