「若者の人間関係が希薄化している」のか…大人がそう誤解してしまう「意外な理由」

AI要約

近年の若者世代の人間関係の特徴について分析。不変不動の一貫したアイデンティティから、場面ごとに変幻自在なものへと変化していることが希薄な関係に見える要因となっている。

20代の若者が、上役との付き合いや家族的な雰囲気のある会社で働くことを好ましいと考える傾向があることが統計数理研究所の調査結果から浮かび上がっている。

昨今の日本では人間関係の流動性が高まり、若年層がその最前線にいることから、付き合う相手を部分的に切り替えることが容易となり、部分的な関係でも親密さを感じることができるようになっている。

「若者の人間関係が希薄化している」のか…大人がそう誤解してしまう「意外な理由」

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ネットの発達も相まって、若者世代では人間関係の希薄化が進んでいる──。近年は、そんな指摘もしばしば耳にする。

しかし、実際に彼らに声をかけてみれば、意外と付き合いの良いことに気づかれるだろう。

統計数理研究所が実施している「日本人の国民性」調査の最新データによると、「上役と仕事以外のつき合いはあった方がよい」と考える者の割合は若年層ほど高く、20代ではじつに70%を占める。

「家族的な雰囲気のある会社につとめたい」と考える者も同様の傾向を示しており、20代の50%がそう思うと回答している。

もっとも、彼らのコミュニケーション様式が上の世代と異なっていることには留意しておくべきである。おそらく現在40代から上の世代は、濃密な関係を取り結ぶためには相手のことを総体的に理解しておかなければならないと考えるだろう。

しかし、下の世代は違う。当面の付き合いにとって必要な情報だけを共有できていれば、それで十分に濃密な関係を築くことができると考える。いわば全面総括型ではなく、一極集中型のコミュニケーション様式へと変貌している。

このような違いが生じているのは、昨今の日本では人間関係の流動性が高まっており、その最前線にいるのが若年層だからである。かつて人間関係が固定的だった時代には、人々は親密な相手と否応なく全人的に付き合わざるをえなかった。

しかし、流動性が高まってくると、その前提は崩れ去っていく。各々の局面で付き合う相手を切り替えることが容易なため、その場面で必要とされる情報だけで十分に親密な関係が成立しうると感じられるのである。

上の世代から眺めたとき、若年層の人間関係が希薄化しているように映るのは、おそらくこの感覚の相違によるところが大きい。総体的な関わり合いを前提としていると、部分的につながっている関係はどうしても希薄なものに見えてしまう。

しかし、そもそもアイデンティティが不変不動の一貫したものではなくなり、場面ごとに切り替わる変幻自在なものになっているとすれば、現在とは違う場面における自分を目前の相手にあえて呈示しないことは、その相手に対してむしろ誠実な態度といえなくもない。そんなものを顕わにされても、相手は戸惑うだけだからである。