街中でEV車はそれほど見かけないのに、なぜ「使われない充電器」がたくさんあるのか

AI要約

テラチャージはEV充電器のインフラ整備ビジネスで「完全無料」を提供し注目を集めている。

補助金を活用して急速に充電インフラを広げているが、過去には使われない充電スポットの撤去例もある。

充電器設置事業ではニーズに合った計画や料金体系の柔軟性が重要である。

街中でEV車はそれほど見かけないのに、なぜ「使われない充電器」がたくさんあるのか

 2030年までに30万口の充電器を設置――。そんな「国策」を受けてEV充電器のインフラ整備ビジネスが盛り上がっている。そこで独特の存在感を放っているのが、Terra Charge(テラチャージ)社だ。

 同社はもともと、2010年に創業してインドやフィリピンなどグローバルで電動スクーターなどのEV事業を展開してきたテラモーターズが2022年に立ち上げたEV充電インフラ事業だった。しかし、国内のEV充電インフラ事業に注力しようということで2024年2月、社名をテラモーターズからテラチャージに変更したのだ。

 そんなテラチャージがなぜ業界で注目を集めているのかというと、「完全無料」を打ち出しているからだ。

「設置・運用にかかる費用は完全無料で、EV充電器を設置するプランをご用意しております。補助金申請代行から、設置工事、運用管理・メンテナンスも全てテラチャージが担います」(テラチャージ公式Webサイトより)

 商業施設やホテル・旅館などからすれば、こんなにありがたい話はない。ということで、同社の公式Webサイトによれば機械式駐車場、賃貸マンション、公共施設などに続々と設置が進んでいる。

 例えば、6月3日には「コジマ×ビックカメラ 足立加平店」が急速充電器のサービスを開始したが、これは「急速充電器の無料設置」を全国で進めるテラチャージの第1号基だという。

 では、なぜ同社は「完全無料」というかなり攻めた売り方ができるのかというと、「国の補助金」である。経産省はEVインフラ整備のためにこれまで多くの補助金を出してきているが、ここにきてさらにその流れを加速させている。2024年度分はなんと前年度予算(175億円)の倍となる360億円を補助金に充てる方針を固めているのだ。

 「EVを普及させていくためにはしょうがない出費だ」と思う人も多いだろう。もちろん、インフラ整備というものは、まず張り巡らせなくてはいけない部分があるのは事実だ。ただ、補助金で賄えるからといって、毎年約59万人の人口が消えていくこの国で「産めよ、殖せよ」というノリでインフラを急拡大していくわけにもいかない。

 そんな日本のシビアな現実がうかがえるようなニュースがちょっと前にあった。

 東京駅から総武線快速で約90分の場所に、千葉県山武市というところがある。九十久里浜に面した自然の豊かな場所だが、EVシフトという世界的な潮流を早々にとらえて、補助金を使って2014年10月に市役所などに急速充電器を4基設置していた。しかし、それが2024年5月に運用が停止され、撤去されることとなったのである。

 理由はシンプルに「使われない」からだ。

 山武市によれば、これらの急速充電器は2014年から2024年までで415回しか使われず、この10年間で約2200万円の赤字が出たという。

 実はこのように「補助金が出る」ことから軽い気持ちでサクっと設置したものの、いざ運用してみると「使われない充電スポット」になってしまうリスクがあるのだ。この背景について、充電器設置事業関係者はこのように語る。

 「稼働率が低い理由はさまざまな要素があります。まず拠点のニーズに見合った導入計画ではなかったことが挙げられます。このほかには、アプリの使い勝手も大切ですし、ローミング(利用者が契約している事業者とは異なる充電設備でもサービスを利用できる機能)などの利用促進施策があるかも重要ですし、やはり料金も大きいです。定額プランなど、柔軟な料金体系を導入している充電設備会社の充電器は、稼働率が高いですね」

 このような「使われない充電スポット」問題は各事業者の頭を悩ませていて、それは「完全無料」をうたって急速に充電インフラを広げているテラチャージにも当てはまる。