30年ぶりに過半数割れの公算 マンデラ氏率いた名門政党ANC 汚職疑惑や経済低迷で市民の信頼失う

AI要約

南アフリカの総選挙でANCが過半数割れの見通しとなり、連立協議が活発化

経済低迷や汚職疑惑に悩む国民の不満が高まる中、新たな政権構築の過程が進行中

マンデラ時代の遺産が薄れ、国内の社会問題がANCの支持を揺るがす

南アフリカで5月29日に投票が行われた総選挙(下院、定数400、任期5年)で、故マンデラ大統領が率いた名門与党「アフリカ民族会議」(ANC)は第一党を維持するものの、30年ぶりに過半数を割る見通しとなった。ANCはアパルトヘイト(人種隔離)を軸とする白人支配の打倒に主導的役割を果たしたが、近年は相次ぐ汚職疑惑に加え経済低迷も続き、国民の不満が高まっていた。

ロイター通信によると開票率約91・6%の段階でANCは約41%の得票にとどまっている。2019年の前回選の得票率は57・5%だった。総選挙は比例代表制で、全議席確定後に下院で大統領が選出される。

開票経過を受けて、連立協議に向けた動きが活発化してきた。ANCに次ぐ2位につけているのは、得票率が20%を超えた民主同盟(DA)。白人を支持基盤とするリベラル政党で、報道官はラマポーザ大統領の辞任を条件にANCと連立を組む可能性を示唆した。

DAのほかにズマ前大統領の新党「民族の槍(やり)」(MK)や、黒人主体の急進派「経済的解放の闘士」(EFF)も連立候補として浮上した。

MKはズマ氏の出身地などで健闘し、ANCを苦戦させた。EFFはMK同様にANC出身者が党首で、白人の土地接収を主張する急進派だ。両党はANCと政策面で近い関係にある。DAは両党が連立与党になれば経済・投資環境を悪化させ、国に「災厄をもたらす」と警告している。

ANCはアパルトヘイト終結後の1994年の全人種による選挙以来、下院で過半数を維持してきた。しかし、ズマ氏は複数の汚職疑惑で批判が高まって18年に辞任し、後継のラマポーザ氏にも汚職疑惑が浮上した。2人ともANCの出身で、腐敗への反発が広がって支持を減らした。

黒人が全人口の約8割を占める南アでは、昨年の失業率は32%を超えて94年当時より約10ポイント増えた。若年層の失業率は40%超に達する。経済低迷が打開できず貧困が広がり、殺人などの犯罪発生率も世界最悪レベルだと指摘される。

ロイターは「マンデラ氏の時代のものは何も残っていない。国は悪い方向に変わってしまった」との有権者の声を報じており、社会問題が解消されないこともANCの不振につながったとみられる。

(中東支局 佐藤貴生)