「ネルソン・マンデラの党」の時代が終了した南アフリカの「不安しかない」未来

AI要約

南アフリカで行われた総選挙は、1994年以来最も重要なものと位置づけられている。現職のANC政権が過半数を取れない可能性が高まっており、国内の課題に対する不満が高まっている。

失業率の上昇や暴力犯罪の増加などの課題に対して現職は取り組んでいるが、改革の遅れを指摘する声も多い。今回の選挙でANCが過半数を取れなければ、政権の安定性に影響が出る可能性がある。

主要野党はANCとの協力について慎重な姿勢を見せており、内部の対立が激化するリスクもある。

「ネルソン・マンデラの党」の時代が終了した南アフリカの「不安しかない」未来

5月29日、南アフリカで総選挙がおこなわれた。南アフリカはアフリカのなかでも政治的・経済的に影響力が強く、グローバルサウスの主要国とみなされているため、選挙の行方は世界中で注目されている。

英誌「エコノミスト」は、今回の選挙を「1994年(アパルトヘイト廃止後初の総選挙)以来、最も重要な選挙」と位置づけている。

今回の選挙が特に重要視されている理由は、ネルソン・マンデラを輩出し、1994年以来ずっと議会の過半数を維持してきた「アフリカ民族会議(ANC)」が過半数を取れない見込みだからだ。

エコノミストの取材に答えた、アパルトヘイトを覚えている農村部の年配の有権者は、ANCに投票し続けると述べた。しかし、都市部やもっと下の世代の有権者は、アパルトヘイト廃止から30年が経過したいま、目の前の課題にANC政権が対処できていないと、厳しい目を向けるようになっている。

英紙「ガーディアン」によると、南アフリカの2024年の失業率は33%近くに達し、若者世代はほぼ半分が失業状態だという。

また、国民は計画停電や、一向に減らない暴力犯罪に苦しめられている。

現職のシリル・ラマポーザ大統領はこれらの課題に取り組むと表明してきたが、「改革が遅すぎる」と感じる国民も多いようだ。

南アフリカの大統領は、議会の投票によって選出される。ANCが過半数を割っても代わりに結集して過半数を取れる勢力はまだないとみられ、今回の選挙でANCが即座に政権から転落するわけではなさそうだが、ANCが単独で過半数を取れなければ、ラマポーザが再び大統領に選出されるためにはANC以外の政党の協力が必要となる。

エコノミストによると、ANCが50%をわずかに下回る票を取れれば、小政党と取り引きするだけで済む。しかし、さらに得票率が低くなると、主要な野党と協議をする必要があるかもしれない。

主要野党は3つあるが、どれもANCへの協力にスムーズに合意するかは不明だ。

ANCから分派した「経済的自由の闘士」は、ウラジーミル・プーチンを崇拝し、白人に厳しく、白人所有の土地の収用や、経済の大部分の国有化を掲げている。

もう1つのANCからの分派「民族の槍」は、汚職で辞任したジェイコブ・ズマ前大統領が率いており、憲法を否定するようなポピュリズム的統治を目指しているとされる。

最大野党の「民主同盟」は、白人の支持が多く、植民地主義を全否定しないと示唆し、アパルトヘイト後の南アフリカの象徴であるレインボーフラッグ(1994年から使用されている国旗)を燃やす選挙広告を出すなどしているため、黒人からは不安視されている。

いずれの党と組むにしても、ANCは一部の支持者の不満を招くことになるだろう。それが党内の対立に発展する可能性も大いにあるため、次の任期、政権は政争への対処で手一杯になり、国内の諸問題はさらに悪化する、という暗いシナリオも予想される。