「日韓VS中」に構図様変わり、思惑交錯 個別の懸案は棚上げ

AI要約

日中韓首脳会談に向けて、日本、中国、韓国の首脳が個別に会談を行った。経済分野での交流拡大や対話の継続が一致する一方、利害が対立する案件は棚上げされることとなった。

日本と韓国は共に中国との経済的な関係において影響を受けており、日米韓の関係が深まる中、韓国は安定した関係の元で中国と向き合える自信を持っている。

中国は日米韓の連携強化を脅威と捉え、日本との対話に前向きな機運が高まる一方で、安全保障面での立場の隔たりがあるため、手探りの隣国関係が続いている。

「日韓VS中」に構図様変わり、思惑交錯 個別の懸案は棚上げ

 4年半ぶりに開かれる日中韓首脳会談を前に、3カ国の首脳が26日、韓国・ソウルで個別に会談した。経済分野での交流拡大や対話の継続で一致する一方、利害が対立する案件は事実上棚上げする格好となった。米国が主導する対中包囲網に歩調を合わせる日韓と、中国との溝は深い。日米韓の関係にくさびを打ち込みたい中国と、最大の貿易相手である中国との関係改善を図りたい日韓。双方の思惑が交錯した。

 黒のスーツに赤いネクタイ姿の岸田文雄首相は、初めて正式に会談する中国の李強首相と笑顔で握手し、席に着いた。約1時間の会談後、岸田氏は記者団に「大局的な方向性を確認した上で諸懸案についても議論ができ、有意義な会談になった」と語った。

 日本外務省によると、岸田氏は東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を巡る日本産海産物の禁輸措置解除やスパイ容疑で拘束された邦人の早期解放を要求したが、大きな進展は見られなかった。それでも日本の外務省幹部は「この枠組みで対話を再開できたことこそが成果だ」と強調する。

 2019年12月の前回会談は日韓関係が元徴用工訴訟問題で悪化し、日中間も沖縄県・尖閣諸島問題などでぎくしゃくしており、「日本対中韓」の構図だった。だが22年に発足した韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権下で日韓関係が急速に改善し、今回は「日韓対中国」の構図となった。

 日本と韓国にとって中国は最大の貿易相手国で、中国の「経済的威圧」にさらされている点も共通している。日韓がそれぞれ同盟を結ぶ米国との関係も深まる中、韓国大統領府関係者は「韓米日関係が安定したことで自信を持って中国と向き合うことができる」と語った。

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 一方、日米韓の連携強化は中国にとっては脅威だ。中国が今回、日韓重視の姿勢を見せたのは日米韓への警戒心の裏返しとも言える。

 米国は半導体などハイテク分野で対中輸出規制を強化し、日韓に歩調を合わせるよう迫る。中国政府の巨額の補助金によって電気自動車(EV)や太陽光パネルの「過剰生産」が発生し、海外に安価で輸出されていると批判する国際社会との摩擦も生じている。

 11月の米大統領選でトランプ前大統領が返り咲いた場合、中国への圧力はさらに強まる可能性がある。中国側はなるべく有利な状況をつくろうと、ウクライナ侵攻による制裁に苦しむロシアとの連携を深め、自国の市場に依存度が高いドイツ、フランスなどに対し個別に外交攻勢を仕掛けているさなかだ。米国がいない日中韓首脳会談の枠組みは、中国にとって切り崩しの好機でもある。

 今月下旬には中国共産党中央対外連絡部(中連部)トップの劉建超部長が来日し、与野党幹部と面会する予定。中国側に日本との対話に前向きな機運が高まっているものの、台湾問題など安全保障面での立場の隔たりは大きく、米国の動向を見ながら手探りの隣国関係が続きそうだ。 (ソウル伊藤完司、平山成美、山口卓)