中国による「現代版朝貢貿易」の周辺国に成り下がったロシア、400年ぶりの中国優位という歴史的転機

AI要約

中国とロシアの関係について、プーチン大統領の中国訪問で習近平国家主席とのハグが注目を集めた。

歴史的にはロシアが上回っていた中露関係も、現代では中国の優位が見られる。

また、現代版の朝貢貿易のような関係も生まれつつある。

17世紀以降の中露関係について、ロシアの優位があった時代から中国の優位が現代に至りつつある。

過去の国境交渉やシベリア鉄道の開通などが、関係の変遷を示している。

ソ連の時代から現代にかけて、中露関係は変遷を続けており、今後も注目が必要。

 中国とロシアの関係を見る上で、興味深い一コマがあった。5月に中国を訪問したプーチン大統領を出迎えた際の習近平国家主席のハグだ。

 かつての中華帝国は周辺国の貢物に対して、それを上回る下賜物を与える朝貢貿易を展開したが、同じような温情が習近平主席の態度からは垣間見えた。

 歴史的に中国優位だった中露関係も、この300~400年はロシア優位で進んでいたが、21世紀に入って風向きが変わりつつある。

 (山中 俊之:著述家/国際公共政策博士)

 「この2人はハグまでするのか」と思った人もいたに違いない。

 5月に中国を訪問したロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席の会談でのことだ。報道の映像を見ていると、このハグは習主席から求めたように見えた。

 西側諸国から制裁を受けるロシアのプーチン氏にとって、中国との良好な関係なくして経済も政権も維持できないという必死の思いだったであろう。習主席としては、かつての中華皇帝が周辺国の使節を温情でもてなすような思いであったのではないか。中国上位の中露関係の時代の到来を象徴したハグであったように思う。

 「現代版朝貢貿易」のようだ。

 朝貢貿易とは、周辺国の使節が中華帝国の皇帝に貢物を献上することにより、代わりに多くの下賜物を受け取る貿易のことだ。下賜物は貢物より高価であることも多く、莫大な利益を上げることができた。足利義満は、日明貿易で巨大な利益を上げたといわれるが、それだけ明王朝の下賜物が高価なものであったのだろう。

 ロシアは、欧州への穴を埋める形で石油と天然ガスという貢物を輸出して、莫大な利益という下賜物を得ている。まさに「現代版朝貢貿易」においてロシアは、中華帝国にひざまずくことになった。

■ ロシア優位だった17世紀以降の中露関係

 中露関係の歴史を大きく振り返れば、古代から中国が文化的・経済的に圧倒的に優位だった。

 そんな中国の絶対優位が崩れだしたのは17世紀だ。モスクワに誕生したロマノフ王朝は、徐々にアジア地域に勢力を拡大し(ロシアの東方進出と呼ばれる)、ロシアと中国(当時は清王朝)の国境が接するようになった。国境交渉では、ロシア優位に進み条約が締結された。

 18世紀になると、ロシアは欧州列強に名を連ねるようになり、清王朝にも圧力をかけるようになる。19世紀には、シベリア鉄道が開通して、中国東北部への権益を強めた。

 1917年のロシア革命により社会主義革命を成し遂げたロシア改めソ連は、南の隣国の中華民国に対して社会主義を輸出しようとする。単なる圧力だけでなく、政治への介入まで手掛ける関係になった。その結果、中国で共産党政権が誕生した。この頃は、ソ連が兄、中国が弟であった。

 ところが、1960年頃からイデオロギー対立が起こり、兄弟のような蜜月は終わる。それでも、17世紀後半以降、ロシアは中国よりも経済的・軍事的に優位であった。

 そんな関係も、21世紀に入って風向きが変わってきた。