裁判中の「香港スパイ容疑事件」の容疑者が、なんとロンドンで遺体で発見...資金と指示を出していた「恐るべき出先機関」の「正体」

AI要約

遺体で発見された香港スパイ容疑者の事件が香港で注目を集めている。

英国人男性のマシュー・トリケット氏がスパイ容疑で起訴されていたが、遺体で発見されたことで衝撃が広がっている。

事件の始まりは華人女性の自宅に不法侵入したことから始まり、スマホからの監視活動が明るみに出て国家安全法違反の容疑で11人が逮捕された。

裁判中の「香港スパイ容疑事件」の容疑者が、なんとロンドンで遺体で発見...資金と指示を出していた「恐るべき出先機関」の「正体」

 「香港スパイ容疑者を遺体で発見」……香港時間5月21日夜に流れたこのニュースが、いま香港中の注目を集めている。

 ニュースの内容は、37歳の英国人男性、マシュー・トリケット氏が英国時間の19日夕刻にロンドン市郊外の公園で遺体となって発見され、警察は市民に情報提供を求めて死因を捜査中だというものだった。

 このニュースがなぜ地球を半周して香港市民の関心を集めているかというと、このトリケット氏は約1間前の13日に英国ウエストミンスター裁判所で起訴された「香港スパイ容疑事件」の3被告の一人だったからだ。

 この「香港スパイ」事件自体が、メディアを含めて香港人にとって寝耳に水の話であり、その後1週間、ああだこうだ、と街中の茶飲み話になっていたところに被告の一人が不審死したというニュースが流れたのだから、話題にならないわけがない。

 筆者もこの「スパイ事件」について最初の紹介記事をまとめた直後だったので、ニュースのヘッドラインを見たとき、目を疑った。いったい、なにが起きたのか? いや、それとも「起ころう」としているのか? 

 香港と、その元宗主国である英国は今や非常に複雑な関係となっているが、まずは前代未聞のいわゆる「香港スパイ」事件の概要についてまとめておく。なお、現時点では事件については英国当局が裁判所に提出した起訴状しかソースがないため、ネット上にアップロードされたその起訴状をもとに紐解いてみる。

 事件が明るみになったのは、一見「スパイ」とは表面上関係のない事件からだった。

 5月1日、今年に入って香港から移民してきた華人女性の自宅に不法侵入したとして、トリケット被告と英国籍と中国(香港)籍の二重国籍を持つ華人ピーター・ワイ被告が現行犯逮捕された。しかし、2人が所持していたスマホから彼らが、2020年の「香港国家安全維持法」(以下、国家安全法)施行後に香港を脱出して英国で生活する香港人民主活動家らの行動を監視していたことが明るみに出た。

 そこから2人に指示を出していた人物として、やはり英国籍と中国(香港)籍の二重国籍者であるビル・ユン被告が浮上する。驚いたことにこのユン氏、香港政府の直属機関である香港経済貿易代表部駐ロンドン事務所(以下、経貿代表部ロンドン)のナンバー3であること、さらにトリケット被告、ワイ被告への報酬がこの経貿代表部ロンドンの銀行口座から直接支払われていることがわかったのである。

 英国当局は一連の事件に関わったとして11人を逮捕したものの、そのうちユン被告、ワイ被告、そしてトリケット被告の3人を「海外諜報機関のために諜報活動を行った」として、英国国家安全保障法違反の「外国干渉罪」容疑で起訴した。起訴後3被告にはパスポートの提出や被告間の連絡禁止などの条件付きで保釈が認められ、24日に再出廷することになっていた。

 だが、これまで西洋諸国で「スパイ」といえば、中国やロシアなどの国名と紐づけられることが多く、そこに香港が結びついたことはこれまでなかった。主権返還前には香港自体が東西陣営の諜報機関が暗躍する場だと言われていたものの、それでも「香港スパイ」という名詞が登場することはなかった。だから、その新語がもたらす衝撃は大きく、起訴翌日には英国の主要紙がトップページで報道したという。

 そこにトリケット被告が遺体で発見されたというニュースが飛び込んだのだから、話題が大沸騰したのである。