【社説】日本人男児刺殺 中国に詳細な説明求める

AI要約

10歳の日本人男児が中国南部の学校で刃物で刺され死亡。事件の背景には愛国教育や経済格差による国民の不満がある可能性。再発防止策が求められている。

過去の日中関係の歴史や愛国教育の影響、中国社会における外国人への攻撃事件の発生など、日本と中国の関係に不安が広まっている状況。

日本政府が中国に対し、事件の原因究明や再発防止策の徹底を求めるべきであり、私たちも中国人を一括して憎むことなく、冷静な対応を心がけるべき。

【社説】日本人男児刺殺 中国に詳細な説明求める

 暗たんたる思いである。日中関係がこれ以上悪化しないように、中国に徹底した原因究明と再発防止を求める。

 中国南部の広東省深圳市にある日本人学校の近くで、母親と登校していた10歳の男児が刃物で刺され、死亡した。容疑者は44歳の男で、警察に身柄を拘束された。

 香港に隣接する深圳は改革開放経済の先進地だ。華為技術(ファーウェイ)などの世界的IT企業が本社を置く。日本からも多くの企業が進出し、駐在員が多い。

 中国政府は事件の詳細を明らかにしていない。容疑者の犯行動機は不明だが、日本人を狙った可能性もある。

 凶行が起きた18日は、満州事変の発端となった1931年の柳条湖事件から93年に当たる。この日は「国辱の日」といわれ、ナショナリズムと反日感情が高まりがちだ。

 中国では90年代前半、共産党の求心力を高めることを目的に「反日」を柱とする愛国教育が強化された。今回の事件の容疑者はその教育を受けた世代だ。ゆがんだ愛国教育の悪影響で、強い反日感情を抱く人がいる。

 現在の中国社会は、広がる経済格差などに不満を募らせる国民が少なくない。他の都市でも外国人が襲われる事件が発生している。

 やり場のない怒りが暴発して事件になったとの見方もある。国への不満や異議の表明が、権力によって徹底的に抑え込まれているためだ。

 ここ数年、現地の日本人学校を根拠なく中傷したり、排除を呼びかけたりするネット上の投稿も相次ぐ。

 日本人学校を狙った可能性のある事件は、今年6月にも江蘇省蘇州市で起きている。この事件ではスクールバスの案内係の中国人女性が、刃物を振りかざす男から日本人母子を守り命を落とした。

 中国政府は「偶発的事件」と説明し、3カ月近くたっても詳細な原因を明らかにしていない。

 犯行の動機や背景を突き止めなければ、効果的な再発防止策は導き出せない。このままでは事件が繰り返されることへの不安は消えない。

 現地の日本人は外出をできるだけ控え、屋外で日本語を話さないようにする自衛策を取っているという。

 こうした異常な状態が続くようだと、誰も安心して中国を訪れることはできない。日中の往来や対中投資を控える動きが拡大すれば、経済的な影響も大きくなる。

 事件をうやむやに処理してはならない。日本政府は中国に対して詳しい説明と対策を要求すべきだ。

 私たちも留意したいことがある。日本にいる中国人を事件の容疑者と同一視して憎んではならない。中国人の多くは心を痛めている。

 深圳の事件で亡くなった男児は将来、日中を結ぶ懸け橋となったかもしれない。日本人と中国人が反目する姿は望まないはずだ。