ロシアの戦死者が7万人超す、約2割は義勇兵 BBCなどの調査で明らかに

AI要約

ウクライナにおけるロシア兵の死者数が7万人を突破し、そのうち約20%が義勇兵であることが明らかになった。

義勇兵の中には中高年の男性やロシア国外から参加した人もおり、装備不足や訓練の問題などが露呈している。

戦場での死者数についてはウクライナ政府の情報が少なく、ロシア政府の戦略は議論を呼んでいる。

ロシアの戦死者が7万人超す、約2割は義勇兵 BBCなどの調査で明らかに

オルガ・イヴシナ、BBCロシア語

ウクライナにおけるロシア兵の死者数が7万人を突破したことが、BBCが分析したデータから明らかになった。

また、これらの死者の約20%が義勇兵(開戦後にロシア軍に加わった民間人)だった。、義勇兵が戦場での死者数の最多を占めたのは、2022年にロシアがウクライナ全面侵攻を開始して以降で初めて。

ロシア全土では毎日のように、ウクライナで殺害された人々の名前や死亡記事、葬儀の写真がメディアやソーシャルネットワークで公開されている。

BBCロシア語とロシアの独立系サイト「メディアゾナ」は、公式報告などのオープンソースの情報に記載されている名前をもとに、報じられている名前と照合した。

我々は、そうした情報が当局や遺族から共有されたものであり、戦死者として特定されていることを確認した。

ウクライナで死亡したロシア兵の名前を確認するうえで、新たに設置された墓石も役に立つ。こうした墓には通常、ロシア国防省から送られた旗や花輪が置かれているからだ。

■戦死者の1万3000人超は義勇兵

我々はウクライナで死亡した7万112人のロシア兵の名前を特定したが、実際の死者数はこれよりも相当多いと思われる。死亡した人の詳細を公にしない遺族もいる。また、この分析結果には、我々には確認できなかった名前や、ロシア占領下のウクライナ東部ドネツク州とルハンスク州における民兵の死は含まれていない。

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上図:戦死したロシア兵の内訳(1カ月あたりの合計死者数)

(薄い色から)民間軍事会社、受刑者、義勇兵、動員兵、契約軍人

出典:ロシア当局、メディア、公開情報、オープンソース情報

BBCロシア語と、(ロシアでは「外国の代理人」とみなされている)メディアゾナが立証したロシアの軍事損失に関するデータは、モスクワ時間2024年9月19日午前10時(日本時間同午後4時)時点のもの。新しいデータは絶えず入手可能になっており、ここ数カ月間の合計死者数はさらに増加すると予想される

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戦死者7万人超の約20%にあたる1万3781人は義勇兵だった。ロシア軍には釈放や金銭と引き換えに入隊した受刑者など、様々なカテゴリーに属す兵士がいるが、義勇兵の死者数は今やそのすべてを上回っている。これまで死者数の中で最も大きな割合を占めていた元受刑者たちは19%、動員兵(戦闘に招集された市民)は13%となっている。

昨年10月以降、義勇兵の一週間あたりの死者数が100人を下回ったことはない。310人以上の死者を記録した週もある。

ウクライナはというと、戦場での死者数についてコメントすることはほとんどない。同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2月、ロシアによる全面侵攻でこれまでに3万1000人のウクライナ兵が殺害されたと明らかにした。しかし、アメリカの情報に基づく推計では、実際にはこれ以上の犠牲が出ているとされる。

リナト・クスニヤロフ氏は、死亡した多くの義勇兵に典型的な事情を抱えていた。ロシア中部バシコルトスタン共和国のウファ出身のクスニヤロフ氏は、家計をやりくりするために路面電車の車両基地と合板工場での二つの仕事を掛け持ちしていた。62歳だった昨年11月、ロシア軍と契約を交わした。

それから3カ月足らず戦闘を生き延びたが、2月27日に戦死した。現地のオンライン追悼サイトに掲載された死亡記事には、「勤勉で立派な男」とだけ記されていた。

私たちが分析したデータによると、軍に登録した男性の大半は、安定した高賃金の仕事を見つけるのが難しいロシアの小さな町の出身者だった。

ほとんどの人は進んで軍に加わったようだが、南西部チェチェン共和国の出身者の中には、強制されたり脅迫されたりしたと人権活動家や弁護士に話す人もいた。

一部の義勇兵は、自分たちが署名した契約書に契約満了日が記載されていないのを知らなかったと話している。そのことに気づき、ロシア政府寄りのジャーナリストに接触して兵役を終わらせられるよう協力を求めたが失敗に終わったという。

軍の給与は、ロシア国内の裕福ではない地域の平均賃金の5~7倍も高く、加えて無料保育や減税などの社会福祉サービスを受けられる。ロシアの多くの地域では、軍と契約を結んだ人への一時金の額が繰り返し引き上げられている。

■前線での死者、大半は中高年の義勇兵

前線で命を落とす義勇兵のほとんどは42~50歳だ。私たちの戦死者リストの1万3000人超の義勇兵のうち4100人がその年代だ。戦死した60歳以上の義勇兵は250人で、最高齢は71歳だった。

義勇兵の死傷者が増えているのは、彼らが前線で作戦上最も困難な地域、特にウクライナ東部ドネツク州に配置され、消耗した部隊のための援軍の根幹をなしていることが要因だと、複数のロシア兵はBBCに語った。

私たちが話を聞いたロシア兵によると、ロシアのいわゆる「肉ひき器」戦略は減速することなく続いているという。この表現は、ウクライナ軍を消耗させ、ロシアの砲兵にウクライナ軍の位置が露呈するように、ロシア政府が容赦なく兵士を前方に送り込むというやり方を表すために使われている。オンライン上で共有されているドローン(無人機)映像には、ロシア部隊が装備や大砲や軍用車両の支援がほとんどあるいは全くない状態で、ウクライナ軍の陣地を攻撃している様子が映っている。

時には、一日に数百人が殺害されることもある。ここ数週間、ロシア軍はこうした戦術でウクライナ東部の町チャシヴヤールやポクロフスクを奪取しようと必死になっていたが、うまくいかなかった。

ロシア国防省の軍医総局による公式調査によると、兵士の死因の39%は四肢の負傷で、応急処置やその後の医療措置が改善されれば死亡率は大幅に下がるという。

ロシア政府の行動は、インセンティブとともに義勇兵の募集を強化する一方で、新たに公式の動員を実施して人々を強制的に戦わせることを避けたがっていることを示唆している。

地方議会での地元当局者の発言からは、地域から人員を集めるよう上層部から命じられていることがうかがえる。地元当局者は求人ウェブサイトに広告を出したり、借金や管財人との問題を抱えている男性に連絡を取ったり、高等教育機関で求人キャンペーンを行うなどしている。

2022年以降、受刑者も釈放の見返りとして入隊するよう奨励されてきた。今では新たな方針により、刑事訴追を受けた人は裁判の代わりに戦地へ行くという取引を交わせるようになっている。軍に加われば訴追は完全に凍結され、完全に取り消される可能性もあるという。

■外国人義勇兵も犠牲に

殺害された義勇兵の中には、ロシア国外から参加した人もいた。私たちが特定した死亡した外国人義勇兵は272人。その多くが中央アジアの出身で、ウズベキスタン人47人、タジキスタン人51人、キルギス人26人となっている。

ロシアをめぐっては昨年、キューバやイラク、イエメン、セルビアで人を雇っているとの複数報道があった。有効な労働許可証やビザを持たずにすでにロシア国内で暮らしていた外国人で、「国家のために働く」ことに同意した人には、戦争を生き延びれば強制送還されず、市民権獲得のための簡略化された手続きが提供されると、約束されている。こうした人々の多くは後に、ロシア市民と同様、書類の内容を理解していなかったと不満を漏らし、メディアに助けを求めた。

インドとネパールの政府はロシア政府に対し、自国民のウクライナ派遣を停止し、死亡した自国民の遺体を送還するよう求めている。これまでのところ、こうした呼びかけへの対応はない。

■新兵が粗末な装備で戦地に

ロシアの新兵の多くは、訓練の内容を批判している。昨年11月にロシア軍と契約した男性は、前線に配備される前に射撃場で2週間の訓練を行うことを約束されていたと、BBCに語った。

「実際には、練兵場に放り出され、装備品を配られただけだった」、装備品は粗末なものだったと、この男性は付け加えた。

「私たちは列車に乗せられ、次にトラックに乗せられ、前線に送られた。私たちの約半数は走行していた道路からそのまま戦場に放り込まれた。徴兵事務所に出向いてからわずか1週間で前線に出た人もいた」

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアナリスト、サミュエル・クラニー=エヴァンス氏は、「カモフラージュや潜伏、夜間に静かに移動する方法、日中に目立つことなく移動する方法といった基本的な理解は、基本的な歩兵技術として教えられるべきだ」と指摘する。

別の兵士もBBCに対し、装備品に問題があると語った。問題は「色々あるが、一番の問題は、ちぐはぐな軍服一式や、一日で擦り切れる標準的なブーツ、20世紀半ばにつくられたことを示すラベルが付いたかばんだ」とした。

「防弾チョッキに安物のヘルメットと、ちぐはぐな装備だ。これで戦うのは不可能だ、生き延びたいなら、自分で自分の装備を買うしかない」

(英語記事 Volunteers dying as Russia’s war dead tops 70,000)