引き継いだ工場は経営難…フィリピンで尽力する異色の“剣士” 「鬼滅の刃」が追い風に

AI要約

福岡県春日市出身の江崎雄太さんは、フィリピンで剣道の普及に努める異色の経歴を持つエリート剣士であり、工場経営者でもある。

海外志向があり、フィリピンに移住した江崎さんは、手作りの剣道具工場を引き受け、日本から剣道具の製造拠点が移っている現状や競技人口減少の課題に取り組んでいる。

選手経験を生かし、剣道具の改良や製造に力を注ぎ、フィリピンの従業員たちの生活を支える取り組みをしている。

引き継いだ工場は経営難…フィリピンで尽力する異色の“剣士” 「鬼滅の刃」が追い風に

 フィリピンで剣道のために駆け回っている福岡県春日市出身の男性がいる。錬士6段の腕前を持つ江崎雄太さん(37)。日本でも海外産が主流となっている剣道具の工場経営を苦境にもかかわらず引き受け、フィリピン代表チームのコーチでもある異色の経歴を持つ。両国にいる次世代の剣士のために-。新しい一歩を踏み出そうと海を渡った先で力を尽くしている。(マニラで、稲田二郎)

 剣道のエリートだった。父は強豪福岡第一高(福岡市)剣道部の元監督。同市の名門道場に通い、高校では父の指導を仰いだ。青山学院大(東京)、社会人でも研さんを積んだが、勝利を求められる日々に違和感を抱えていた。「やらされてる感じがして。きついし、あまり好きではなかったですかね」と笑う。

 自分の価値観を探したいと海外志向があり、31歳だった2018年に福岡市の会社を辞めた。当時交際していたのは、今は妻のフィリピン人。高校時代のカナダ留学を機に英語を習得しており、言葉が通じる首都マニラへの移住を考えた。

 ただ、仕事の当てはなかった。下調べで現地に入った際に聞いたのが、マニラ郊外のタギッグ市にある剣道具工場の話。従業員約50人と世界最大規模の製造拠点の経営難だった。

 剣道具は大部分が手作りで、人件費の割合が高い。日本で使われる剣道具の製造拠点は日本から中国、東南アジアへと移ってきた。

 一方で、日本の高校の剣道部登録者は22年度に3万2861人と13年度比で約3割減るなど、競技人口は減少。新型コロナウイルス禍もあり、中国などの一部の工場は閉鎖された。「工場がつぶれれば供給数が減って道具が値上がりし、剣道を始められない子が増えるかも」。移住は21年3月。工場を譲り受けて「フィリピン武道具」として再出発した。

 選手経験は、痛みを抑えるなど防具の改良に生きた。生産に加え、今年8月には福岡市南区に「剣道具えさき」を開店し、高品質で可能な限り安く提供する環境を整えつつある。「フィリピンの従業員は大家族が多い。皆の生活がかかっていますから」と力がこもる。