トランプが法廷画家に「やあ、元気かい?」と挨拶したとき

AI要約

法廷画家のジェーン・ローゼンバーグは、様々な有名人の劇的な裁判を40年以上にわたって描いてきた。彼女は電気椅子での処刑なども描いており、仕事の代償として罪悪感にさいなまれることもある。

裁判での一日の様子や最速での法廷画完成など、ローゼンバーグの仕事の舞台裏についても語られている。

法廷画家としての仕事への愛情や苦悩、裁判での感動的な瞬間などが描かれている。

トランプが法廷画家に「やあ、元気かい?」と挨拶したとき

法廷画家のジェーン・ローゼンバーグは、40年以上にわたって全米を飛び回り、世間の注目を集めた劇的な裁判の数々を傍聴席の最前列で見てきた。ビル・コスビー、バーナード・マドフ、ハーヴェイ・ワインスタイン、ジョン・ゴッティ、そしてドナルド・トランプの裁判などだ。

被告のディテールを素早く記憶し、パステル鉛筆で手を汚しながらできるだけ正確にとらえなければならない。何年もかけて擦り切れた指先にはカバーを付け、双眼鏡を使うこともある。

それはストレスがたまり、胸が痛むことも多い仕事だ。「楽しいものではありません」とローゼンバーグは言う。

凶悪犯の裁判や死刑執行の場に立ち会ったこともある彼女は、自身の仕事の代償について新著『描かれた証言』(未邦訳)でこう記している。

「私は男が電気椅子で処刑される様子を描いたこともある。そうした絵を描いた後は、罪悪感にさいなまれ、手にこびりついたパステルの粉以外の何かを消し去るために、手を何度も洗わずにはいられない」

それでもローゼンバーグは「この仕事を愛しています」と話す。「絵を描くことも、絵を描いてお金をもらうことも、刺激的な裁判を最前列で見ることも好きなのです」

法廷画家という仕事の苦労と魅力や、証言台に立つ著名人らがマイクのないところで語ったことについてローゼンバーグに聞いた。

──法廷での「典型的な一日」というものがあれば、教えてください。

通信社から電話がかかってきたら、画材一式と着替えを持って家を出ます。いつ呼び出しがあるかわからないので、必要なものはだいたいバッグに入れて、すぐに持ち出せるように玄関に置いてあります。

私は汚すうえにエプロンを着用しないので、暗い色の服を着ることが多いです。うまくいけば一番乗りで、最もいい席を選び、画材をすべてセッティングします。

スケッチは現場で仕上げなければならず、その場で被写体を記憶する必要があります。絵を自宅に持ち帰ることはありません。完成したらすぐにニュースに載ります。

──これまでで最も早く完成させなければならなかった法廷画は?

罪状認否だと、かなり時間が限られています。6~7分ぐらいです。たとえば、ボストンマラソン爆弾テロ事件(2013年)の容疑者の場合がそうでしたね。

でも罪状認否が長引くこともあります。トランプ(前大統領)の不倫口止め料裁判がそうでした。罪状認否の前に多くの弁論がおこなわれ、それから検察官が34の罪状を読み上げたので、なおさら時間がかかりました。

私は席に着くと、裁判所の職員や警備員すべてを描きはじめましたが、法廷にあれだけ大勢の人がいるのを見たのは初めてでした。

それからトランプが入廷し、彼も描きました。でもそのスケッチが完成する前に、彼が突然、マイクに向かって「無罪を主張します」と言ったんです。

これはマイクに向かって話すトランプを描かなければと思い、紙をもう1枚取り出しました。すると今度は、彼が検事のほうを向いて、にらみつけるような視線を送ったんです。そこで私は彼を正面から捉えることができたので、この顔を描かなければと思いました。