【解説】移民による殺傷事件でドイツからの「強制送還」は増えるか

AI要約

ドイツ西部ゾーリンゲンでナイフを使った殺傷事件が発生し、シリア人男性が逮捕された。容疑者はISISのメンバーである疑いがあるが、以前は過激派として認識されていなかった。

事件は難民への反発を強め、EU全体で「大きな変化」を引き起こす可能性がある。右派政党の勢いも拡大し、移民政策が注目されている。

ドイツではシリアへの強制送還が論争となっており、保守派政治家らは安全な地域への送還を主張。他の欧州諸国も移民政策の強化を模索している。

【解説】移民による殺傷事件でドイツからの「強制送還」は増えるか

ドイツ西部ゾーリンゲンで、3人が死亡、8人が負傷するナイフを使った殺傷事件が起きた。殺人やテロ組織に関与した疑いで8月25日に逮捕されたのは、シリア人の男性(26)だ。これを受け、ドイツでは難民への反発が強まっている。

カタールメディア「アルジャジーラ」によると、個人情報保護法に基づき、逮捕された男はイッサ・アル・Hと特定されている。男はISIS(いわゆる「イスラム国」)のメンバーである疑いがあるという。だが、これまでドイツの治安当局から「過激派」として認識されていなかった。

なお、容疑者は2022年12月にドイツに到着したシリア人で、難民申請中だった。

ギリシャの日刊紙「イ・カシメリニ」は、この事件は「シリアやアフガニスタンのような安全でない国への難民の強制送還」に関する議論を巻き起こし、欧州連合(EU)全体で「大きな変化を起こすきっかけとなる可能性がある」と報じている。

ドイツでは9月1日、チューリンゲン州とザクセン州で州議会選挙がおこなわれた。開票は終了していないが、移民や難民に対して排他的な右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が、チューリンゲン州で初めて第1党になる見通しになっている。ザクセン州でも、1位の最大野党で中道右派の「キリスト教民主同盟」に迫る勢いだ。

ドイツメディア「ドイチェ・ヴェレ」によれば、AfDのアリス・ワイデル共同党首は、ゾーリンゲンでの殺傷事件を受けて「少なくとも5年間は移民の受け入れ、入国許可、帰化を即時禁止するべき」だと主張していた。

ジュネーブ難民条約に従い、ドイツでは、難民申請が却下された者を「安全でないとみなされる国」には強制送還しない。現在のシリアでは内戦が続いているため、過去12年間、ドイツから同国へ強制送還された者はいなかった。しかし現在、保守派政治家らは「シリアの一部地域は安全だと主張している」という。

また前出のイ・カシメリニによれば、「フランス、イタリア、デンマーク、オランダなどの国々はすでに移民政策を強化すべきだと主張している。ドイツの動きは、これらの取り組みを後押しする可能性がある」と報じた。

なお、ショルツ首相は移民政策として、強制送還を大規模に増やすことを約束している。ドイチェ・ヴェレによれば、2023年第1四半期から2024年第1四半期にかけて、強制送還の件数は前年比で34%増加した。