中国やインドが「中所得国の罠」を乗り越え、先進国の仲間入りをするには? 世界銀行上級副総裁、インダーミット・ギルに聞く

AI要約

中所得国が直面する逆境とは何か。豊かになることの意義や課題。中所得国が直面する罠とは何か。

中所得国の成功の鍵となる3段階の計画。投資誘致から技術導入まで。女性教育や経済機会の拡大の重要性。

米国の成功例から学ぶ。教育や就労面の人種差別や性差別の減少の意義。

中国やインドが「中所得国の罠」を乗り越え、先進国の仲間入りをするには? 世界銀行上級副総裁、インダーミット・ギルに聞く

貧困や気候危機といった地球規模の問題は、中国やインドなど、60億人の人口を擁する中所得国にかかっているといっても過言ではない。だが、彼らの多くは「前世紀型のアプローチ」にこだわっており、それでは先進国の仲間入りをするのに相当な時間がかかると、世界銀行上級副総裁のインダーミット・ギルは指摘する。

「富めることは栄光なり」

これは、過去半世紀で最も成功した開発戦略の一つを鼓舞した格言である。開発途上国で広く共有されている願望であり、それには充分な理由がある。国が豊かになれば、輝かしい結果を実現できるからだ。生活水準は向上し、貧困は減退する。製品や生産方法が改善されることで、環境汚染も改善される。

そのため、ますます多くの開発途上国が、国家目標として先進国に到達する期限を設定している。中国は2035年、ベトナムは2045年、インドは2047年といった具合だ。

だが、奇跡でも起きない限り、これらが成功する見込みは薄い。というのも、所得水準が上がる過程で、特有の「逆境」に陥るからだ。この先数十年の世界の命運は、この逆境を乗り越えられるかどうかにかかっている。

どんなに富を追い求めても、頂点に近づける国はごくわずかだ。開発途上国の経済成長は、中所得国に到達したのち頭打ちになる傾向がある。世界銀行はこの現象を「中所得国の罠」と呼ぶ。

この概念はこれまで10年近く議論の的になってきたが、最新の証拠には説得力がある。1970年以降、中所得国の1人当たりの平均所得は、米国の10%を超えたことがないのだ。

1990年以降、中所得国から高所得国になった国はわずか34ヵ国にすぎず、そのうち3分の1以上は、EUへの加盟や油田の発見による恩恵を受けている。これらの経済圏に住む総人口は2億5000万人にも満たない。ちょうどパキスタンの人口と同じくらいだ。

現在、中所得国(世界銀行の定義では、一人当たりの国民総所得が約1150ドルから1万4000ドルの国々)にはおよそ60億人が暮らしており、極度の貧困に苦しむ人々の3分の2近くがここに集まっている。さらに中所得国は、世界の経済生産の約40%を生み出し、二酸化炭素排出量の約3分の2を排出している。

つまり、極度の貧困に終止符を打ち、繁栄と暮らしやすさを拡大するという世界規模の取り組みは、これらの国々次第で成否が決まると言っても過言ではない。

現在、中所得国は、高齢化、地政学的および貿易上の摩擦、環境に配慮しつつ成長を加速させる必要性など、かつての中所得国より重い課題に直面している。にもかかわらず、多くの国は依然として前世紀型のアプローチに固執し、投資誘致に重点を置いている。

それではギアを1速に入れたまま車を運転するようなもので、いつまで経っても目的地に辿り着けないだろう。稀にイノベーションへの飛躍を試みる国もあるが、それは1速からいきなり5速にギアチェンジして、エンストを起こすようなものだ。

それより優れた方法がある。世界銀行は3段階の計画を提案している。まず、低所得国には投資誘致に主眼を置いた戦略がベストだが、下位中所得国に移行した国には、より洗練されたアプローチが必要になる。投資に加え、海外からの計画的な技術の導入が求められるのだ。

つまり、最新の技術やビジネスモデルを取り入れ、それを国内に普及させることで、企業が商品やサービスをグローバルに供給できる体制を整備するのである。

技術の導入には、ますます多くの人材、つまりエンジニア、科学者、マネジャーなど、高度な技能を備えた専門家が必要となる。この人材プールを拡大するには、労働者全体のスキルを向上させなければならない。

中所得国経済圏の自滅的な特徴の最たるものが、女性の教育や経済的機会を制限することで、女性を戦力外に追いやる傾向だ。この慣行を是正することで得られる見返りは計り知れない。

たとえば、米国では1960年から2010年の間に達成した成長の3分の1以上が、教育や就労面における人種差別や性差別の減少に起因している。この変化がなければ、米国の一人当たりの所得は現在の8万ドルではなく、5万ドルに留まっていただろう。