セラピストたちが「コーチ」へ“転職”?シリコンバレー発の「コーチング」ブーム そのセラピーハックの利点と危険性とは?

AI要約

シリコンバレーのテック起業家や幹部らがコーチングへのニーズが高まっており、一部のセラピストがコーチとして活動することが増えている。

コーチングはセラピーと比較して収入が高く、柔軟性があり、インパクト志向のクライアントに適している。

しかし、境界線の曖昧さや倫理的懸念など、リスクもあることが指摘されている。

セラピストたちが「コーチ」へ“転職”?シリコンバレー発の「コーチング」ブーム そのセラピーハックの利点と危険性とは?

シリコンバレーの起業家や幹部らの間で、コーチングへのニーズが高まっている。これに伴い、一部のセラピストたちが、コーチングを兼業、もしくは“転職”し始めている。

米紙「ニューヨーク・タイムズ」によれば、コーチングのほうが収入が良いのだという。

サンフランシスコのような物価の高い街のセラピストの時給は、「全米で最も高額で約350ドル」。だが、コーチングのトップクラスのコーチは、その4倍の金額を請求することがあるという。

その理由のひとつは、起業家や幹部らコーチングの料金は、「クライアント個人の口座ではなく、会社の予算から出されることが多いから」。また、個人の成長が企業の成長を支える可能性があるため「賭けが高くつくから」でもあるようだ。

そもそもテック起業家や企業幹部らがコーチングを必要とする背景には、「テクノロジー業界で求められる、途方もない成長速度や成功への多大なプレッシャー」がある。

投資家が期待するイノベーションや常軌を逸した成長速度を実現するにはどうすれば良いのか?

彼らはその答えのひとつをコーチングに見出しているようだ。

セラピーとは異なり、コーチングには規制がない。コーチになるための必須資格もない。

そのため、コーチングは「よりフレキシブル」になりうると、同紙は述べている。

セラピーのセッションは、基本的には厳格な守秘義務が定められたプライベートな環境(個室、もしくは1対1のオンライン)で実施されなければならないが、コーチングでは、レストランや公園でも会話ができたり、メールでのやりとりも可能だという。

また、セラピーは一般的に、過去の傷やトラウマを癒し、個人の精神的な幸福を改善することを目的としているため、過去の問題の探求と解決に焦点が当てられ、そこに多くの時間が割かれる。

一方、テック起業家らが受けているコーチングでは、「その業界のスピードに合わせて、迅速なパフォーマンスの向上と成功の達成に焦点が当てられている」。

「各々の目標達成のための実行可能な戦略を重視する」という、いわば、超短期での成功を目指すクライアントたちのニーズを最大限に汲み取った、より直接的かつ的を絞った介入を提供しているようだ。

起業家や幹部らは、この「効率性や柔軟性」ゆえに、セラピーよりもコーチングのほうが「スタートアップ文化ならではの激しい競争やプレッシャーを乗り越えるための、より実用的なツール」だとみなしているという。

実際、こういったコーチングは、最適化や革新、個人の成長を「ハッキング」することを重視するシリコンバレーの姿勢とも共鳴し合う点が多いようだ。

しかし、セラピストがコーチングを兼業することで、そのふたつの境界線を曖昧にすることには、リスクもあると指摘されている。

たとえば、セラピーが提供していた厳格な機密保護がないことで、機密情報が漏洩するなどの安全性が失われる可能性がある。

また、短期的な成長と結果を重視することで、長期的な個人の成長と治癒が無視される可能性もある。これにより、メンタルヘルスに対する、これまでのセラピーの包括的なアプローチの価値が損なわれてしまう可能性があると危惧する専門家も少なくない。

さらに、このコーチングブームが「企業の利益によって突き動かされている」側面にも倫理的懸念もあると、同紙は述べている。