「日本産抜きでも困らなくなった」処理水放出から1年、中国で進む水産物代替 ロシアから輸入7割増

AI要約

中国市場における日本の水産物の影響について。中国政府の輸入規制により国内産品やロシア産品の需要が高まっている一方、日本産品の輸出に影響が出ている。

中国市場での日本産水産物の代替品として、国内産やロシア産などが増加している。また、マグロの消費低迷や輸出先の多様化も見られる。

日本政府は中国政府に輸入規制の撤廃を求めているが、解決の見通しは立っておらず、中国以外の販路拡大が求められている。

「日本産抜きでも困らなくなった」処理水放出から1年、中国で進む水産物代替 ロシアから輸入7割増

 【北京・伊藤完司】東京電力福島第1原発処理水の海洋放出から24日で1年。中国政府による輸入全面停止で、日本の水産物が姿を消した中国市場では国内産品の存在感が高まり、ウクライナ侵攻で西側諸国から制裁を受けるロシア産品も大量に輸入し、置き換わりが進んでいる。日本側では「チャイナ・リスク」を意識して中国以外への販路拡大を急いでおり、結果が出ている地域もある。

 「ノルウェー産より脂は少ないけど、おいしいよ」

 北京市最大の海鮮市場「京深海鮮市場」に今年オープンした新疆ウイグル自治区産サーモンの専門店で、店員はこう強調した。昨年ごろから飲食店で話題になっているという。

 国営中央テレビは7月、内陸部にある同自治区でも養殖池などでサーモンやカニ、エビの養殖が増え、現地での今年のサーモン生産量が約7千トンとの見通しを伝えた。

 自国産に加え、増えているのがロシア産だ。

 ウクライナ侵攻前の2021年、中国のロシアからの水産物輸入額は約120億元(2460億円)だったが、23年には約7割増えて203億元(4161億円)に達した。京深海鮮市場でも店員がロシア産カニを「身はやや少ないが、ノルウェー産より1割ほど安い」と売り込んでいた。

 ほかにもカナダ、インドネシア、スペインなどからの輸入額は22年から23年に十数%増えた。

 日本産からの代替が進む一方で、北京やその近郊では日本の回転ずしチェーンが相次いで新規開店し、行列ができている。ただ、魚は全て中国産か日本以外の外国産だ。

 「養殖技術が向上したのか、中国産の魚の質が上がっている」と感じるのは、北京の日本料理店の関係者。「残念だが、日本産抜きでも食材の仕入れに困らなくなった」と打ち明ける。

 京深海鮮市場にある新疆ウイグルの養殖サーモン専門店の隣では日本産マグロを扱う店が閉店していた。関係者によると、マグロは日本からスペイン産などに置き換わっているが、最近はマグロ消費が低迷。中国人の消費動向も流通に変化をもたらしているようだ。

 “日本産いらず”は、日本の水産物の輸出に大きな影響を及ぼした。22年に日本からの輸出額は約836億円まで増えたが、昨年8月からの禁輸でこの1年間はほとんどない(香港へは、福島県など10都県以外の水産物は輸出可能)。

 特に中国への輸出量が多かったホタテは米国や欧州、東南アジアなど輸出先を増やし、養殖マグロ、ブリなどの輸出をリードしてきた九州の業者や自治体も、新たな販路確保に懸命だ。

 鹿児島県の調査では、22年度は県内から中国への輸出額は養殖ブリなど約6億7千万円だったが、23年度は約3億9千万円に減った。ただ大口の米国や香港、東南アジアへの輸出を増やし、23年度は水産物全体の輸出額が過去最高の約140億円に達したという。

 日本政府は中国政府に輸入規制の即時撤廃を求め、外交当局や専門家間で対話が続けるが、決着の兆しはない。日本政府関係者は「長期化は必至で、中国以外への販路拡大がより重要になる」と話している。