「計算が速い=数学・算数が得意」は誤解 数学に本当に必要な「スピードよりも、暗算のスキルよりも大切なもの」とは?

AI要約

数学の才能は生まれつきのものではない。数学を理解し扱う能力はほぼすべての人に備わっている。

子供たちが数学の苦手意識を持つ原因は、計算スピードを重視する教育システムやテストの影響が大きい。

高度な数学に取り組む際には、スピードよりも深い思考や視覚的な思考が重要であることが示唆されている。

「計算が速い=数学・算数が得意」は誤解 数学に本当に必要な「スピードよりも、暗算のスキルよりも大切なもの」とは?

多くの人は、数学の才能は「生まれつきのもの」で、一部の子供だけが持っているものだと思っている。

しかし、実際はそう限られたものではなく、ほぼすべての人に数学を理解し、それを扱う能力がある。

にもかかわらず、多くの子供が苦手意識を持っているのは、数学や算数に関する「誤解があるから」だと、数学の専門家のシャリーニ・シャルマは米誌「タイム」に寄稿している。

彼女によれば、最も大きな誤解のひとつは「計算が速い=数学・算数が得意」という思い込みで、その考えは学校の教育システムによって強化されていると指摘している。

たとえば、制限時間内にたくさんの計算を解くことで能力をはかるテストの形式は、子供たちにとって「トラウマになりうる」という。

シャルマによれば、もちろん、ある程度は問題をスラスラと解く能力は重要だ。

計算ドリルなどを使った、短時間により多くの問題を解くトレーニングは、計算作業をスムーズにできるようになるうえで決して無意味ではない。

また、子供が困難な問題に取り組む際に、ワーキング・メモリー(作業記憶:何かの作業をするときに必要な情報を記憶から取り出して、その情報を一時的に保ち処理する能力)をすぐに呼び出す能力も育める可能性がある。

しかし、「スピードを強調しすぎることで、数学の才能があるはずの生徒の意欲をそぐ可能性は否めない」とシャルマは書く。

「むしろ、より高度な数学に取り組む場合、つまり正確性を確保するには、スピードよりも、冷静かつ体系的に理解しながら問題に取り組む能力のほうが欠かせない」

実際、数学の専門家やそれを目指す学生たちが、より高度な数学にどのように取り組むのかを調査した、ダートマス大学学長シアン・リー・ベイロックによる研究では、「意外な結果が出ている」という。

同調査は、物理学の大学院生と教授を集めたグループと、物理学をひとつだけ修了した学部生のグループを比較しており、このふたつのグループに同じ問題を同じ制限時間内に解くよう指示した。

研究者らは、数学を専門とする大学院生や教授のほうが「より迅速かつ正確に作業を終えるだろう」と想定していたが、当たったのは「より正確であること」のみで、問題解決にはより長い時間がかかった。

彼らは解答に着手する前に、問題を深く理解し、そのうえで最適なアプローチを検討するために時間を使っていた。その結果「はるかに正確」な回答が出せたという。

制限時間内により多くの問題を解かなければならない、一般的な算数や数学の試験方式は、スピーディーな計算、または暗算が得意な子が高く評価されがちな一方、数学にとって非常に重要な「深い思考」や「視覚的な思考」を得意とする子が評価されにくく、そういったタイプの子供たちに苦手意識を植え付けてしまう。

10歳前後ですでに「うちの子は、数学よりも文系」「私は数学より文章や絵を描くほうが得意」と、数学を遠ざける暗示をかけてしまうケースが非常に多いと、ベイロックは述べている。

「人間は先天的に数字の感覚と数学的に考える能力を持っている」。だからこそ、乳児や幼児は早い段階で「2つと3つを区別できるのだ」。