パリ五輪で連覇放棄したロシア選手、複数が軍や治安機関に所属「プーチンの戦争」支持

AI要約

ロシアのスポーツ選手によるウクライナ侵攻への支持や制裁措置によるパリオリンピック不参加について。

東京大会で金メダルを獲得したロシアの選手の現在の状況やプーチン政権の関与について。

ロシアの体操選手を含む35人の選手のうち、軍や治安機関に所属する者が多く、政治利用の側面が浮かび上がる。

パリ五輪で連覇放棄したロシア選手、複数が軍や治安機関に所属「プーチンの戦争」支持

3度目の夏季オリンピック開催となったパリ大会は、ロシア・プーチン政権によるウクライナ侵攻が暗い影を落とした。国際オリンピック委員会(IOC)の方針を受け、前回東京大会で金メダルを手にしたロシア人選手35人はパリ大会には全員不参加。35人の出自や現在の状況を調べると、うち9人が侵攻の主軸となる軍・治安機関に帰属していることがわかった。また、少なくとも5人は3月のロシア大統領選挙に出馬したプーチン氏の立候補推薦人となっており、政権の意向に沿って、公にパリ大会を「史上最悪のオリンピック」などと非難していた。(ジャーナリスト・佐々木正明)

東京五輪のロシア人金メダリストの調査は、プーチン政権下の「国家」と「スポーツ」の強固な関係ぶりを鮮明に示した。プーチン政権がトップアスリートを広告塔にして、侵攻継続によって揺らいでいる政権基盤の強化につなげている実態や、他方で、国際大会に出場したくても戦争にノーと言えず、出場できないロシア人選手の苦しい胸の内も浮き彫りにした。

前回東京大会は2021年夏に開催された。自国開催の2014年ソチ冬季五輪後に内部告発された国家ぐるみのドーピング問題が原因となって、ロシア人選手は国家の代表ではなく「ROC(ロシア・オリンピック委員会)」の所属として個人資格での参加が余儀なくされた。ロシア国営メディア「タス通信」によると335人が出場した。

ロシアはそれでもお家芸の体操やフェンシング、レスリング競技などで好成績を収め、金メダル20個、銀メダル28個、銅メダル23個の合計71個のメダルを獲得した。

今回のパリ大会には、ロシア人が「個人の中立選手」(AIN=Individual Neutral Athletes)として15人がエントリー。ウクライナ侵攻を積極的に支持しないことが条件で、プーチン政権の意向に従わなかったことになる。国内では参加者に対して批判の声が出たが、テニス女子ダブルスでミラ・アンドレーエワ選手(17)とディアナ・シナイデル選手(20)が銀メダルを獲得した。

熱狂の渦に包まれたパリ大会の期間中、東京大会のロシア人金メダリストたちはどうしているのかを調べた。金メダル種目には団体などがあるため合計で35人のアスリート数になる。多くの選手が東京大会8カ月後に始まったウクライナ侵攻が原因となって、国際スポーツ連盟が「制裁措置」を発動し、五輪や世界選手権を含む国際大会への参加が禁止されていた。

35人のうち9人が、ウクライナへの軍人侵攻を担うロシア軍やプーチン大統領直轄のロシア国家親衛隊などといった軍や治安機関に所属しており、スポーツの政治利用とも言えるプーチン政権の特徴が浮かび上がった。

IOCは昨年12月、中立の立場であるロシア人選手の出場を認める方針を示したが、侵攻を積極的に支持しないことや、軍・治安機関に所属しないことを条件にした。将校や兵士のアスリートらは早々にパリ行きの切符は失われた。

東京大会の体操男子団体で金メダルを獲得した4人のうち3人の選手は、軍・治安機関に所属。国内で「キング」の愛称を持つ体操界のスター、アルトゥル・ダラロヤン選手(28)や跳馬が得意なデニス・アブリャジン選手(32)は、ロシア国家親衛隊に所属している。

早々に大会不参加が決まったアブリャジン選手は今年3月、「なぜスポーツが政治の人質になっているのか」とIOCの決定を非難していた。

4人の団体メンバーのうち、エース格のニキータ・ノゴルニー選手(27)は東京大会では個人総合でも3位に入り、優勝した橋本大輝選手とコロナ禍での戦いとなったことに対し、健闘をたたえ合う姿が日本のメディアにも大きくクローズアップされた。

しかし、東京大会の後、軍の一員としてウクライナ侵攻への関与をさらに深めるようになっていた。今ではプーチン大統領や他の主要閣僚と同様に、米国、ウクライナ政府が定めた個人制裁リストに名を連ねる立場だ。

ノゴルニー氏は現在、ロシア国防省傘下の青少年団体「ユナルミヤ(青年軍)」トップの同組織参謀総長を務めている。若者たちへの愛国教育を強めるプーチン政権は全国各地にユナルミヤの支部を組織し、8歳から18歳までの若者の数百万人が所属しているという。各支部では基礎的な軍事訓練も行われており、団体を「卒業」した若者は軍の正規兵となり、ウクライナの前線へと派遣されているともいわれている。

ノゴルニー氏をユナルミヤのトップに置いたことは、オリンピックのスターである本人の社会への影響力を利用し、侵攻の正当化を図りたいという政権の思惑が感じられる。

中立選手での出場を自らも拒否したノゴルニー氏はパリ大会で体操競技が始まった直後の7月27日、SNSを更新し、「オリンピックは人々だけでなく全ての国々を団結させるが、残念ながらそのような状況にはない。このような事態はオリンピック史上、最悪の出来事の一つとして記録されることは間違いない」とメッセージを綴っている。