「著作権侵害天国・日本」に世界の生成AI企業が引き寄せられている データを無断使用して「機械学習し放題」

AI要約

日本政府は著作権侵害に対する無防備な対応により、AI企業誘致による国内クリエイターへの被害が懸念されている。

生成AIの台頭により、日本のイラストレーターなどのクリエイティブ業界は未来への不安を募らせており、AI企業の進出による著作権侵害への警戒が高まっている。

政府の対応や著作権法の不備に対し、クリエイティブ業界から抗議の声が上がっており、AI技術を取り巻く国際的なルール構築の重要性が議論されている。

「著作権侵害天国・日本」に世界の生成AI企業が引き寄せられている データを無断使用して「機械学習し放題」

日本政府は海外の生成AI関連企業の誘致に力を入れており、企業側も日本市場を好意的に見ている。だが、著作権侵害に対する政府の無防備な対応によって、国内のクリエイターが大きな被害を受けていると英紙「フィナンシャル・タイムズ」は警鐘を鳴らす。

2年前、生成AI(人工知能)で作られた画像やアニメ動画がSNS上に出回りはじめたとき、イラストレーターの木目百二(もくめももじ)は、「このままだと、日本の創作文化が崩壊してしまう」と絶望した。

「イラストレーターの仕事もなくなってしまうと思いました」と語る木目は、東京在住の21歳だ。イラストレーター、漫画家、ミュージシャンとして活動している。

「私たちに未来はないと感じています」と彼は言う。

同じ頃、メタ(旧フェイスブック)のマーク・ザッカーバーグやOpenAIのサム・アルトマンといったグローバルテック業界の経営者らが続々と東京を訪れ、岸田文雄首相と面会した。

高齢化と慢性的な労働力不足に直面する日本は、AI企業にとって巨大な可能性を秘めた魅力的な市場だ。2024年4月、OpenAIはアジア初となる拠点を東京に構えた。

自前の大手AI企業を持たない日本に、一部のテック企業は熱視線を注ぐ。日本の現行の著作権法では、無断で画像などのデータをAIモデルの学習のために商業利用しても罪に問われない。専門家からは法の不備を指摘する声も上がる。

東京大学教授で、内閣府の「AI戦略会議」の座長を務める松尾豊は言う。

「AI企業は、多くの理由で日本に引き寄せられています。人口が減少傾向にあり、国内企業の多くがデジタル化を促進しているため、AIの活用に積極的です。さまざまなコンテンツを機械学習に活用しても著作権侵害に問われない点も、魅力的だと言えます」

欧米諸国や中国は、企業がAIモデルを学習させる際、ネット上のコンテンツを使用することを厳格に規制しようとしている。そのなかで、日本の友好的な対応は際立つ。日本のクリエイティブ業界は、AI企業が自分たちの作品やコンテンツを無断・無料で利用することを懸念している。

木目は、著作権者保護の視点に欠ける日本の現状に抗議の声を上げる何万人ものイラストレーター、アーティスト、ミュージシャンのうちのひとりだ。

3月、文化庁はこうした声の高まりを受け、AI企業が著作権侵害で責任を問われる可能性のあるケースをまとめた新しいガイドラインを公表した。だが、著作権法の改正を勧告するには至らなかった。

日本音楽著作権協会(JASRAC)は本紙の取材に対し、「生成AIに関する日本の現行の著作権法はクリエイターの保護に寄与せず、むしろその権利を制限する方向に重点が置かれている」という声明を寄せた。

岸田はG7やその他の国際会議の場で、偽情報などAIの「影の側面」のリスクを減らすための対策を率先して各国に求め、この新しいテクノロジーを管理する国際ガイドラインの必要性を訴えてきた。そんななか、国内のクリエイティブ業界から抗議の声が上がった。

松本剛明総務相は、「規制はイノベーションの足枷になると言われるが、生成AIは社会に甚大な影響を与える技術だ。ユーザーが安心して利用できる環境を作るためにも、透明性の高い確固とした規制を設ける必要がある」と述べている。

AI企業の経営者にとって、日本が魅力的な市場である理由は他にもある。官民双方に市場があることや手厚い公的支援のほか、米国では競合他社で飽和状態にある分野でも、日本でならまだ成功する可能性があるという。

著名なAI研究者デイヴィッド・ハは、東京でAIスタートアップのSakana AIを共同創業した。起業前はグーグル日本法人でAI研究部門を統括し、次いでロンドンのスタートアップStability AIに勤務した。

「日本ではなく、サンフランシスコのベイエリアで起業していたら、数百社の1社として埋もれていたでしょう」とハは言う。