円高、2つのトリガー。米国経済の着地点が示す、ドル円相場の行方

AI要約

7月には為替相場・株価が急激に変動し、円安から急速に円高へと調整した。

資本取引に焦点を当て、円高進行の原因を探る。

日米間の金利差が拡大し、キャリートレードが円安を助長した。

円高、2つのトリガー。米国経済の着地点が示す、ドル円相場の行方

7月以降、為替相場・株価の変動が著しい。

7月10日に1ドル=161円台と円安がピークに達した後、日本の通貨当局による為替介入などもあって円は上昇。日米の金融政策決定会合が行われた30、31日以降にも急騰し、本稿執筆時点(8月5日)では一時1ドル=141円台に至るなど、変動幅20円近くにわたる急激な円高方向への調整が進行した。日経平均株価も、8月5日にはブラックマンデーを超える一時4700円安を記録した。

為替市場は輸出入企業・金融機関・個人などのさまざまなプレイヤーが多様なニーズの下に取引を行う巨大なマーケットであり、変動要因を1つに特定することは元来難しい。 今回は、短期的な変動の主要因と目される資本取引に焦点を絞り、直近のドル円相場の状況やアメリカ景気の動向から、今後の為替相場について考察する

円高進行の原因を掘り下げる前段として、まず7月中旬までの歴史的な円安局面を形作った力学について振り返ろう。

2022年3月以降の趨勢(すうせい)的な円安・ドル高進行の主因として、日本と諸外国との間の金融政策スタンスの明確な乖(かい)離が挙げられる。

コロナ禍からの回復局面において生じた記録的な高インフレを抑制するために、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は2022年3月から政策金利の引き上げを開始し、これに前後して諸外国の中央銀行が次々と利上げに踏み切った。FRBの場合、政策金利の誘導目標を利上げ開始前の0~0.25%から23年7月には5.25~5.5%まで引き上げ、現在でも同水準を維持している。

一方で、日本銀行はイールドカーブ・コントロール、マイナス金利といったコロナ禍前からの緩和的な金融政策方針を崩さなかった。結果として、日米間の名目金利差は大きく拡大した。

日米がそれぞれ低金利・高金利を維持するとの見込みが立ちやすかった状況は、円で資金を調達し、ドルをはじめとする高金利通貨で運用する「キャリートレード」と呼ばれる取引が進みやすい環境だった。こうした取引の活発化が円安を助長したとみられる。