「イランvs.イスラエル」中東戦争拡大へ…イラン、そしてアメリカを挑発するネタニヤフの「真の狙い」は何か

AI要約

ハマス最高指導者がイランで暗殺され、イスラエルとの緊張が高まる。

イスラエルはハマスの幹部殺害を続け、停戦協議が進展せず戦争が続く。

アメリカはネタニヤフに対し、停戦交渉を進めるよう圧力をかけているが、説得力に限界がある。

「イランvs.イスラエル」中東戦争拡大へ…イラン、そしてアメリカを挑発するネタニヤフの「真の狙い」は何か

7月31日、ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤがテヘランで暗殺された。前日に行われたマスード・ペゼシュキアン大統領の就任宣誓式に参加するために、イランを訪ねていたのである。殺害したのはイスラエルと見られているが、イスラエルは論評していない。イランは、自国の首都で行われた客人殺害に対して、イスラエルに報復することを宣言したーー。

昨年10月7日にハマスによる攻撃で多数の犠牲者を出し、人質をとられたイスラエルは、ガザで報復を繰り返し、今日までに約4万人を殺害している。イスラエルの戦争目的は、ハマスの壊滅と人質の解放である。しかし、その目的はまだ達成されていない。

軍やモサドを中心とする諜報機関もハマスの幹部を殺害する計画を立案、実行してきており、7月13日のハンユニス空爆でハマス軍事部門「カッサム旅団」のトップ、ムハンマド・デイフを殺害している。

また、7月30日には、ベイルートを空爆して、レバノンのヒズボラの軍事部門最高幹部ファド・シュクルを殺害した。

さらに遡ると、レバノン南部で、7月3日にはヒズボラのムハンマド・ナーマ・ナセル指揮官を、1月2日には、ハマス幹部のサレハ・アルーリを殺害している。

ハニヤの殺害方法については様々な説があるが、ニューヨーク・タイムズによれば、ハニヤが滞在していた施設に2ヵ月前に仕掛けられた爆破装置が遠隔装置で起爆されたという。周到な準備をして敵を仕留めるイスラエルの手法は、ユダヤ人虐殺に関与したナチスの逃亡者を追い詰めるときと同じである。

イスラエルがまだ殺害に成功していないのが、ガザ地区を統括するハマスのヤヒヤ・シンワールである。彼はイスラエルへの越境攻撃を指揮した過激派で、今もガザ地区のどこかに潜伏していると見られている。

シンワールよりは穏健で現実的なハニヤは、イスラエルとの停戦協議の責任者でもあった。カタール、エジプト、アメリカが仲介する停戦協議は、ハニヤの死によって前に進まなくなっている。

停戦が実現せずに戦争が続くことは、ネタニヤフ首相の政治生命の温存を意味する。戦争が終われば、ネタニヤフもご用済みとなる。人質の解放が進まない状況には、人質の家族の苛立ちが募っている。

停戦交渉を進めようとしないネタニヤフに対して、バイデン政権は不満の念を表明している。8月1日に、ネタニヤフと電話会談をしたバイデン大統領は、ハマスと停戦交渉を進めていると述べたネタニヤフに対し、「でたらめを言うな。アメリカ大統領を甘く見るな」と強い調子で非難している。

ネタニヤフが停戦交渉を真剣に進めなければ、アメリカは武器弾薬の供与を停止するという圧力行使を実行するという選択肢もある。

しかし、大統領選挙キャンペーンの最中で、しかもドナルド・トランプとカマラ・ハリスとが接戦となっている状況で、バイデン政権としてもネタニヤフへの説得力を増す手段は限られている。

ハマスの壊滅も人質の解放もネタニヤフの期待通りには進んでいない。幹部を次々と殺害しても、ハマスを完全に潰すのは困難である。しかし、それでもハマスやヒズボラの幹部の命を狙い続けるのは、イランを挑発して紛争への関与を強めさせるという思惑があるからである。

イランが紛争への関与を強めれば、アメリカも動かざるをえなくなる。それこそがネタニヤフの真の狙いだと考えてもよい。