囚人に残されるのは「自分の死か、愛する人の死」だけ…9年の「拷問生活」を経た女性が語る《トラウマの正体》

AI要約

イランでは思想犯・政治犯が逮捕され、過酷な拷問が浴びせられる実態をノーベル平和賞受賞者が告発。

日本で刊行される『白い拷問』は自由への闘いを他人事としないため、世界の闘いを伝える必要性を強調。

逮捕から釈放までの体験を語るイラン人女性の生活の一部を紹介。

囚人に残されるのは「自分の死か、愛する人の死」だけ…9年の「拷問生活」を経た女性が語る《トラウマの正体》

イランでは「好きなことを言って、好きな服を着たい!」と言うだけで思想犯・政治犯として逮捕され、脅迫、鞭打ち、性的虐待、自由を奪う過酷な拷問が浴びせられる。2023年にイランの獄中でノーベル平和賞を受賞したナルゲス・モハンマディがその実態を赤裸々に告発した。

上司の反対を押し切って担当編集者が日本での刊行を目指したのは、自由への闘いを「他人事」にしないため。ジェンダーギャップ指数が先進国最下位、宗教にも疎い日本人だからこそ、世界はつながっていて、いまなお闘っている人がいることを実感してほしい。

世界16カ国で緊急出版が予定されている話題作『白い拷問』の日本語版刊行にあたって、内容を一部抜粋、紹介する。

『白い拷問』連載第23回

『尋問官が相次いで口にする「息子の不幸」「夫の入院」…明らかなウソでも「信じてしまう」イラン独房の異常な実態』より続く

語り手:マフバシュ・シャリアリ

マフバシュ・シャリアリ(1952年、イスファハン州アルデスタン郡ザバレ地区生まれ)は2008年3月5日にマシュハドで逮捕され、20年の禁固刑を科された。2017年9月18日、刑法134条(複数の刑で有罪となった人物は、最も重い罪状に科された刑期だけ服せば良い)の申請が認められ、釈放された。2006年、彼女は暫定のヤラン(ペルシャ語で友という意味)委員会メンバーに選ばれ、他の6人の代表メンバーとともにイランのバハーイー教コミュニティに関わる運動をしていた。マフバシュは逮捕されるまで、この組織の委員長だった。

――独房でたったひとりのとき、何をしていましたか?

トイレ掃除、絨毯掃除、シャワーを浴びる、などです。長い間、祈りを捧げ、神に懇願していました。部屋のなかを何度も歩き回り、声を出して覚えている詩や文章を暗唱しました。考え事のスケジュールを組んだことを覚えています。たとえば、尋問のときのことを思い出し、内容の分析まですることもありました。家と家族のことはしょっちゅう思い出していました。同僚や友人、その他大勢のことを。不安になるようなことを考えると収拾がつかなくなるので、そうならないようにしました。

ほんの少しの間でも看守と話をすることは、私には安定剤でした。誰か話しかける人がどうしても必要だったのです。あるときなど、これは授業をするようなものだと自分に言い聞かせました。自分は自制心についての講義をしているんだと。頭を活性化させておくために、そう思うことにしました。