コロナ禍の英国医療を救った「英雄」キャプテン・トム…その名に「泥を塗る」スキャンダルが続々発覚

AI要約

2020年のコロナ禍の中、退役軍人であるトム・ムーア大尉が英雄となった。彼は100歳の誕生日までに歩行器を使って庭を100往復するというチャレンジを通じて3900万ポンドの寄付を集め、国民に元気と希望を与えた。

しかし、彼の善意には後にスキャンダルが浮上。自伝の売上金がNHSに届かなかったことや、遺族が受け取ったことが判明。さらに、娘が商標登録をし、キャプテン・トムの名前で商品を販売するなど、疑惑が広がった。

キャプテン・トム財団の設立や自宅庭でのスパ建設など、数々の不正も明るみに出ており、今ではトム・ムーア大尉の名前がスキャンダルと結びつくようになった。

コロナ禍の英国医療を救った「英雄」キャプテン・トム…その名に「泥を塗る」スキャンダルが続々発覚

コロナ禍のさなかの2020年、彼はイギリスの英雄となった。99歳の退役軍人だった彼は100歳の誕生日までに、歩行器の力を借りて自宅の庭を100往復するという挑戦を開始。これと引き換えに国民保健サービス(NHS)の医療従事者への寄付を募り、国民に元気と希望を与えた。

集まった金額は約3900万ポンド(当時のレートで約50億円)。彼は女王からナイトの称号を与えられ、100歳の誕生日には空軍が儀礼飛行を行い、自伝はベストセラーになった。ところが今、彼──トム・ムーア退役大尉──の名から人々が連想する言葉は「スキャンダル」だ。

21年2月に死去した大尉の善意は誰も疑わないが、自伝の多額の売り上げはNHSに渡ったわけではなく、遺族が懐に入れていた。しかも大尉の名声が広まると、娘が彼の名前をすかさず商標登録し、さまざまな「キャプテン・トム」グッズを売り出したのは抜け目がないにも程がある。

新設されたキャプテン・トム財団をめぐっても、代表者である娘に多額の給与が支払われるなど、数々の不正が明らかになった。

とどめは、大尉が往復した自宅庭でのスパ建設。「キャプテン・トム」をたたえる慈善施設のように装っていたが、実は建築規制を擦り抜けるための嘘だったことが分かり、今年に入って当局の命令で取り壊された。これぞ「スキャンダル」。

コリン・ジョイス(本誌コラムニスト、在英ジャーナリスト)