ハマスを焚きつけた、米国主導の「イスラエルとアラブ諸国の国交正常化」

AI要約

ハマスによる10・7事件はイスラエルに大きな衝撃を与え、ハマスに対する政策を変えるきっかけとなった。

イスラエルは50年間の鉄壁の守りが崩れ、自国の安全を確保するためにハマスを壊滅させる必要性を痛感した。

ハマスとイスラエルの5度目のガザ戦争が勃発し、双方の対立が激化した。

ハマスを焚きつけた、米国主導の「イスラエルとアラブ諸国の国交正常化」

ハマスによるイスラエル襲撃事件は世界に大きな衝撃を与えている。ハマスの動機、そして襲撃がイスラエルとアメリカにもたらした衝撃とは? 『Voice』2024年7月号より、江崎智絵氏の考察を紹介する。

※本稿は、『Voice』(2024年7月号)より、より抜粋・編集した内容の前編をお届けします。

2023年10月7日、パレスチナの政治組織でガザ地区を実効支配する「イスラム抵抗運動(ハマス)」らによるイスラエル襲撃事件(以下、10・7事件)が発生した。イスラエル側では同日だけで1100名以上が殺害されるとともに、240名ほどが人質としてガザ地区に拉致された。

10・7事件が関係者に与えた衝撃は大きなものであった。まず、イスラエルである。イスラエルは、10・7事件までの50年間、鉄壁の守りを誇ってきた。それが崩されたのである。

国家の生存に対する恐怖心が一気に高まったとしても不思議ではない。なにせ先に述べた被害の甚大さは、鉄壁の守りであったはずのイスラエル軍がハマスらの不穏な動きを事前に察知しながらも、策を講じる必要性を認識していなかったがゆえのことであった。

イスラエルの対ハマス観は180度変わることになった。10・7事件の発生まで、イスラエルは、ハマスに対するアメとムチの政策が自国の安全に寄与していると考えていた。

ハマスへのアメとは、ハマスが実質的に統治するガザ地区からイスラエルに向けてロケットが飛んでこなければ、ガザ地区からの出稼ぎ労働者数を拡大するなどの経済的誘因を与えることである。

反対にムチとは、ガザ地区からのロケットの飛来などに対するイスラエル軍の報復攻撃のことである。イスラエルに向けてガザ地区からロケットが発射されることは、イスラエルにとってハマスがガザ地区の統治に失敗していることを意味したからである。

10・7事件は、この政策の破綻を意味し、イスラエルは、自国の安全を確保するうえでハマスを壊滅させる必要性を痛感したのであった。ゆえに、10・7事件の発生を受け、同日、イスラエルのネタニヤフ首相は、イスラエルが戦争状態にあるとの認識を示し、ハマスの能力を破壊するためにイスラエル軍がすぐさまあらゆるパワーを行使するとした。

こうして、ハマスとイスラエルとの5度目となるガザ戦争が勃発した。