蘇州スクールバス襲撃事件 各地で相次ぐ刺傷事件 小出しの当局情報と明かされぬ動機

AI要約

蘇州の日本人学校で起きたスクールバス襲撃事件は日本人社会に衝撃を与え、日中関係にも影響が懸念された。

事件の周辺では中国の官製メディアが沈黙を保ち、何があったのかが明らかにされなかった。

中国当局は事件を報じない選択をし、メディア統制の強化が進む中、外国人に対する事件は政権のメンツを重視した対応がとられた。

蘇州スクールバス襲撃事件 各地で相次ぐ刺傷事件 小出しの当局情報と明かされぬ動機

「蘇州の事件、動機は何ですかね?」

江蘇省蘇州市で起きた、スクールバスの襲撃事件は、中国の日本人社会に大きな衝撃を与えた。

蘇州は中国で4番目に日本人が多く暮らす町で、筆者の住む北京にも現地に知り合いがいる人は多い。その蘇州で、子どもを含む日本人が襲われたということで、北京でも他人ごとではなく、会う人の多くが事件について気にかけていた。

襲われた日本人の親子は幸い命に別状はなかったが、男を阻止しようとしたバス会社の従業員の女性は、手当ての甲斐もなく28日に死亡が発表された。この事件について中国当局の情報の公表の仕方は、我々日本メディアからするとかなり不自然なものだった。その背景には、何があったのか?

中国便り23号

ANN中国総局長 冨坂範明  2024年6月

 

事件は6月24日午後、蘇州の日本人学校の下校時間に起きた。

バス停に日本人学校のスクールバスを迎えに行っていた日本人の母親と未就学の男の子に、中国人の男が刃物で切りかかったのだ。さらに、中国人の女性が刺されて重体だという情報が飛び込んできた。

日中関係が悪化する中で、日本人を狙った犯行だとしたら、両国関係に与える影響も非常に大きい。

我々ANNを含む日本メディアは、上海の日本総領事館が把握している情報やSNSなどを分析して速報の記事を書き、24日の夜中から現場に記者を派遣して取材を開始した。

しかし、ここで奇妙なことが起こる。

新華社や人民日報、中国中央テレビといったいわゆる「官製メディア」は、この事件を一切報道せず、沈黙を保ったのだ。

事件が起きたのはまだ明るい時刻だし、多くの目撃者がいたはずだ。官製メディアの記者にも当然情報は入ってきていただろうが、一切その内容を報じることはなかった。

また、本来ならば市民に注意喚起を促すべき蘇州市の公安当局からの説明も、一切なかった。海外メディアの情報を入手できない一般の中国の人にとっては、文字通り事件は「ないこと」になっていた。

考えられるのは、メディアを統括する中国共産党の宣伝部門が、報道の許可を与えなかったということだ。事件の性質を見極めるために時間が必要だったことや、模倣犯の発生を防ぐ狙いがあったことなどが、理由として考えられる。

私は10年前にも北京に赴任していたが、そのころよりもメディアに対する党の統制は格段に強まっていると、改めて感じた。いずれにせよ、外国人が切り付けられた事件は「安全」を重視する現政権にとってはメンツを失う事態でもあり、事態を「クールダウン」させる時間を稼いだともいえる。