プーチン大統領は苦渋の判断か ロシアと北朝鮮が新条約…“相互軍事援助”の闇

AI要約

ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記が署名した「包括的戦略パートナーシップ条約」には、有事の際に軍事的な相互援助が盛り込まれている。

条約の背景には、冷戦時代にソ連と北朝鮮が結んだ条約に続く関係強化の意図があり、プーチン大統領も旧条約と同様の内容であると強調している。

条約締結の背景には、ロシアがウクライナ戦争による脅威に対抗し、北朝鮮を牽制する狙いがあるが、今後の両国の軍事協力の実質化には疑問が残る。

プーチン大統領は苦渋の判断か ロシアと北朝鮮が新条約…“相互軍事援助”の闇

19日、ロシアのプーチン大統領が訪朝し、金正恩総書記とともに「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名をした。この条約には、有事の際に「軍事的に相互援助をする」との条文も盛り込まれ、専門家も予測しなかった異例の展開だ。

北朝鮮側は、ロシアのプーチン大統領を一人で出迎える金正恩総書記の様子を報じるなど、対等に渡り合う姿を啓蒙したいという意図も見え隠れする。両国の思惑とは?

双方ともに、様々な思惑が錯綜する中、ロシアと北朝鮮の間に結ばれた「包括的戦略パートナーシップ条約」。

23条に及ぶ広範囲の条約だが、注目されているのが有事の際に「軍事的に相互援助をする」という第4条だ。今回の条文を見ると、「一方が個別的な国家または複数の国家から武力侵攻を受けて戦争状態になった場合、他方は国連憲章第51条と朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の法に準じて、遅滞なく自国が保有しているすべての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」と書かれている。どちらかの国が武力侵攻を受けた場合には、軍事的なものもの含めてすべての手段でお互いに援助する、ということだ。この国連憲章第51条とは、他国に武力攻撃された場合の自衛権を認めた条項を指す。

ソ連と北朝鮮の間には、1961年に結ばれ、1996年に失効した「友好協力相互援助条約」があった。その第1条には「一方が個別の国または国家連合から武力侵攻を受けて戦争状態になった場合、他方は遅滞なく自国が保有しているすべての手段で軍事的またはその他の援助を提供する」とあり、今回の新条約は、国連憲章と両国の法に準じて、という文言以外、ほぼ同じだ。

プーチン大統領も20日、ベトナムでの会見で「旧ソ連時代と同じだ」と強調し、「条約を結んだのは古い条約が消滅したためであり、以前の条約と内容は同じだ。新しいことは何もない」と説明している。

この、冷戦時代に逆戻りしたかのような第4条について兵頭慎治氏(防衛省防衛研究所研究幹事)は、以下のように分析をした。

今回締結された「包括的パートナーシップ条約」には、第4条で有事の際の軍事的な相互援助を行うことが含まれているが、ロシアがこれまでベトナムなどと結んできたほぼ同様の条約には、4条にあたるものが含まれていなかった。その点を考えると、踏み込んだ内容となっている。プーチン大統領は、旧ソ連時代に結んだ「友好協力相互援助条約」の第1項と同じと述べているが、今回は、「国連憲章第51条と北朝鮮とロシアの国内法に準じて」の文言が追加されており、古い条約と同じとみるかどうかは見解が分かれるところだ。

今回、私がより注目をしているのは、なぜ今、北朝鮮とロシアがこの条約を結んだのか、という点だ。いま、この条約を結んだということは、北朝鮮とロシアが今後、軍事協力を強化するという政治的宣言を行った、つまり、意図表明を行ったということである。ただ、北朝鮮とロシアは現状、軍事的な関係がないため、有事の相互援助が実際できるかというと、実行には程遠い状況だ。今回の条約が中身の伴ったものとなるかどうかは、今後、両国の軍事技術協力や軍事演習などが始まり、どう深化していくかを見極めて判断する必要がある。とはいえ、政治宣言としては、一定程度のインパクトはあったと思う。

プーチン大統領が、ソ連崩壊後、失効させた軍事的な相互支援を復活させ、今回の条約を結んだ理由はどこにあるのか。兵頭慎治氏(防衛省防衛研究所研究幹事)は、ロシアと北朝鮮の軍事的接近の背景にあるのは、ウクライナ戦争だと指摘する。

今回の条約締結に至った理由は、一つには、いま、ロシアが戦争を継続する上で、北朝鮮はロシアにとって、いわば、新たな兵器の生産工場という位置づけに変わってきており、これを維持したいという狙いがある。

二つ目には、現在アメリカなどは、自国製兵器を用いてウクライナ軍がロシア領内を攻撃することを容認しつつあり、もう既に領内への攻撃激化の兆しがある。ロシアとしては、アメリカをはじめとした西側諸国のウクライナへの軍事支援と、ロシア領内への攻撃を抑止したいという狙いがあり、北朝鮮に接近するそぶりを見せることで牽制したい、ということだろう。

しかし、これら一連の動きはウクライナとの戦争に起因しており、仮に戦争が終息へ向かえば、ロシアが北朝鮮に接近する動きは弱まる可能性がある。とはいえ、こういった条約を一度締結してしまえば簡単に破棄することは難しく、もし戦争が終わってもロシアの政策転換は容易ではない。ある意味では、今回の条約締結がロシアにとっての足かせとなる側面もある。