ごみ屋敷、ヤングケアラー… 「重層的支援」で縦割り行政脱却 相談窓口進む一元化 焼津など静岡県内市町

AI要約

県内市町で広がる「重層的支援体制整備事業」について。官民の横連携により、住民の縦割り行政では対応できない困りごとに対処している。

焼津市の独自の体制構築やケーススタディを通じて、重層的支援が問題解決に効果をもたらしている様子。

静岡県や国の支援を受けながら、地域全体で包括的相談や支援会議を通じた取り組みが進められている。

ごみ屋敷、ヤングケアラー… 「重層的支援」で縦割り行政脱却 相談窓口進む一元化 焼津など静岡県内市町

 ごみ屋敷、ひきこもり、ヤングケアラーといった縦割り行政で対応できない住民の困りごとを官民の横連携で解決する「重層的支援体制整備事業」が県内市町に広がりつつある。2020年の社会福祉法改正を機に始まった事業で、県内では24年度中に困りごとの相談を一元的に受ける「包括的相談支援」の窓口を全市町が設置する見通し。中でも焼津市は全庁を挙げて支援対象者の掘り起こしと問題の根本的解決を図る独自の体制を構築し、先行例として注目を集めている。

 自治体が住民の困りごとを把握した際、当事者が障害者福祉、介護、生活保護など何らかの制度を利用していれば担当部署と支援パターンが定まりやすいが、いずれの対象でもない人の場合、たらい回しや放置をされがちな実態がある。重層的支援は制度のはざまにある困りごとを包括的相談で確実に聞き取り、部署間や官民の壁を越えた「支援会議」で実効性ある取り組みにつなぐ仕組み。

 焼津市は庁内13課が専門チームを組み、23年11月に「困りごとマルっとサポートセンター」として始動した。年度末まで5カ月間で18件のトラブルを扱い、すべて解決の道筋を定めた。

 「ごみ屋敷状態の自宅で大声を出す男性がいる」と以前から近隣住民が不安を訴えていたケースでは、男性が既存の支援制度の対象外であるため対話の糸口がつかめず、特定の職員が接触を試みたものの応じてもらえずに、問題を抱え込んでいた。しかし、新設した支援会議で庁内の情報共有を図ると、受診歴や経済状況など男性を取り巻く問題が可視化され、「治療と人間関係の回復」を柱とした多角的な対策が決まった。

 医療機関と受け入れの準備をしつつ、複数部署の職員が代わる代わる訪ねて男性の警戒心を解いた結果、男性は治療に応じ、トラブルは収束に向かい始めた。

 市地域福祉課によると、プライバシーに関わる個人情報は虐待対応など特別なケースを除き、通常は限られた職員しか扱えないが、支援会議は出席者に守秘義務が課され、共有が可能になる。河口典英係長は「その人にとっての根本的な解決が考えられるようになり、問題の深刻化防止につながっている」と効果を語った。

■静岡県、体制導入後押し

 重層的支援体制整備事業は「包括的相談」、支援会議の開催を含む「多機関協働」のほか、困りごとの当事者を地域で支える「参加支援」と「地域づくり」、潜在的な支援対象者を掘り起こして寄り添う「アウトリーチ等を通じた継続的支援」の5機能で構成され、これらを一体的に実施する市町に国が交付金を出す。実施は市町の任意だが、静岡県は地域共生社会の構築に資するとして、アドバイザーを市町に派遣するなど後押ししている。

 県福祉長寿政策課によると、5機能の一体的実施は2023年度が熱海市と函南町の2市町で、24年度は10市町となる見込み。一方、小規模市町ではマンパワー不足などを訴える声もあり、同課は実情に応じた導入を呼びかける。

 国の制度検討に関わり市町のアドバイザーを務める一般社団法人コミュニティーネットハピネスの土屋幸己さん(富士宮市)は、支援会議での事例検討が実効性の鍵を握ると指摘している。「多機関、多職種の専門的視点で問題の原因を探りチームとして支援するため、まずは市町による体制整備が重要」と強調する。