インドのモディ首相が予想に反して大勝できなかった理由

AI要約

インドの総選挙で与党BJPが議席を減らし、連立政権を形成する見通し。

野党の成功は貧困層の支持を受け、モディ首相の経済政策への不満が影響。

選挙結果はインド民主主義の勝利であり、政治の展望には明るい面もある。

インドのモディ首相が予想に反して大勝できなかった理由

6月4日に開票されたインドの総選挙で、ナレンドラ・モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)が、予想に反して議会下院(543議席)での議席を大幅に減らした。単独では過半数(273議席)に届かず、与党連合として過半数を維持した。モディ首相は3期目の政権を維持すべく、与党連合を構成する政党と連立協議を開始し、8日にも新政権が発足される見込みだ。

なぜモディ首相率いるBJPは今回の選挙で苦戦したのか。英紙「ガーディアン」がその原因を分析している。

その一因として、打倒モディのためだけに結成された28党からなる野党連合「INDIA」(「Indian National Developmental Inclusive Alliance」の頭文字をとった名称)が、大方の評価以上に強く、政治的手腕があったことを挙げている。

その一部の政党はBJPから執拗に攻撃されたと訴えてはいたものの、野党の選挙戦は全体として、とくに貧しい地方の大衆のあいだに広がる、慢性的失業、低賃金、高インフレに対する不満を取り込むことに成功したと同紙は書く。

モディはこうした問題から注意を逸らそうと、ますます過激なメッセージを発してヒンドゥー教徒とイスラム教徒の分裂を煽ろうとした。だがモディ政権が好待遇の雇用を、とくに大多数の若い層のために創出できずにいることは、有権者らにとって看過しがたかったようだ──ましてや、モディはインドの経済成長物語を語って自らの政治的な成功を収めようとしてきたのだから、と同紙は読み解く。

英誌「エコノミスト」は、今回の選挙結果をうけて、「インド民主主義の勝利」と題した評論を出している。

「この世界最大の選挙民はまさに、民主主義がいかに現実離れした政治的エリートを戒め、権力の集中を制限し、一国の運命を変えうるかを示した」と同誌は書く。

この選挙からインドはどこへ向かうのか。同誌は、権力が弱まったモディが自らの権力と支持基盤の回復のために、最後の手段としてイスラム教徒バッシングに出る可能性もあると見る。

また、経済の先行きについては、連立政権になることで小党の利害関係も考慮せざるを得なくなり、経済改革の断行は難しくなるだろうと予測する。

こうした危険性は現実的にあるが、今回の選挙による明るい見通しのほうが勝っていると同誌は書く。野党が息を吹き返したいま、インドが独裁国家になる可能性は低くなった。BJPとその連合は、憲法改正に必要な議会の3分の2を確保できてもいない。

今回の選挙が示しているのは、インド人がヒンドゥー教のアイデンティティによってではなく、成長への望みによって団結していることだと同誌は論じる。そしてその成長に向けて、対立的な独裁者としてではなく、国をまとめる合意形成者としてインド政治に貢献するのが、モディ首相の役目ではないかとしている。