【オークス】C.ルメール「チェルヴィニアでクラシックを」信じた先に待っていた 女王への頂

AI要約

チェルヴィニアとルメールのコンビがオークスで勝利。

ルメールはチェルヴィニアを信じ、最高の結果を引き出す。

チェルヴィニアが樫の女王となり、ルメールはオークス3勝を達成。

【オークス】C.ルメール「チェルヴィニアでクラシックを」信じた先に待っていた 女王への頂

「この馬でクラシックを」――クラシック戦線が開幕する前から、クリストフ・ルメールはチェルヴィニアとコンビを組むことを決めていたという。

素質馬ばかりが集まったデビュー戦で2着に惜敗するも、その後トントンと2連勝。

アルテミスSでは良血馬サフィラらを寄せ付けずに快勝。好位から抜け出すそのレースセンスの高さをルメールはとても気に入っているようだった。

だが、チェルヴィニアは左トモに違和感を覚えたため、有力視された阪神JFを回避。

彼女不在のレースでルメールはステレンボッシュとコンビを組んで臨み、少差の2着に。桜花賞もこのコンビかと思われたが、ルメールは迷わずにチェルヴィニアを選んでいた。

「阪神JFを終えても、チェルヴィニアへの気持ちは変わらなかった。トップコンディションなら戦えると思っている」と、力強く語る様子には並々ならぬ信頼があった。

残念ながらこの後、ルメールはドバイ遠征で落馬負傷の憂き目に遭い、桜花賞への騎乗は断念。

新パートナーとしてバウルジャン・ムルザバエフと組んだチェルヴィニアは中団からレースを進めるも、見どころなく13着に大敗してしまった。

そうした経緯があるとはいえ、今回のオークスでルメールが再度、チェルヴィニアに乗ると決めた時には驚いた。

阪神JFで騎乗したステレンボッシュが桜花賞を制し、当時の鞍上ジョアン・モレイラは不在となるだけにこちらに乗ることもできたはずだが、ルメールは当初の想いを貫いた。

曇り空の中で行われた今年のオークス。本命とされたのは桜花賞馬のステレンボッシュだった。

ポテンシャルの高さは世代トップクラスとされた大器で桜花賞ではその爆発的な末脚を見せて快勝。

もともと距離が延びてこそとされていた馬だけに二冠制覇は限りなく濃厚とされ、単勝オッズは2.3倍という支持を集め、パドックでも堂々と周回し、女王の風格を漂わせていた。

そんなステレンボッシュの打倒1番手として押されたのが何とチェルヴィニアだった。

桜花賞で大敗したとはいえ、ルメールが信じているように素質の高さは間違いなく、さらにこちらも距離が延びてこそのタイプ。

ライトバック、スウィープフィートらの桜花賞好走組を差し置いてまで単勝オッズ5.6倍の2番人気。休み明けだった桜花賞からは見違えるほどのパワフルな闊歩を見せてくれた。

恐らくこの時、ルメールは確信したことだろう。「今日は勝てる」と。

スタート直後、ショウナンマヌエラとヴィントシュティレが果敢にハナを争い、その後ろにタガノエルピーダ、クイーンズウォークらが先団を形成。

ステレンボッシュはちょうど真ん中くらいの位置に付け、それを見るようにチェルヴィニア、ライトバック、スウィープフィートらが付けることとなった。

前の2頭が飛ばしていき、前半の1000mは57秒7とここ5年で最も速いペースで逃げるという意外な展開に。

前2頭が馬群を離して逃げていたが、ここで脚を溜めようとしたのかそれまで1ハロン11秒5というペースで走っていたが、そこから12秒1、12秒9とペースを落としていった。

3コーナーを回るころにはヴィントシュティレが単騎逃げ、5馬身離れてショウナンマヌエラ、3番手集団が密集し末脚勝負になるという前半とは全く異なる流れで最後の直線を迎えた。

レースを引っ張ったヴィントシュティレ、ショウナンマヌエラが捕まり馬群がひと固まりになったところで最初に抜け出したのは、ランスオブクイーンとクイーンズウォークだった。

前半のハイペースでも前に付け、突然流れが落ち着いたところで脚を溜められたことがプラスとなったか、2頭が前で踏ん張っていた。

二冠を目指すステレンボッシュは内を突いた。一瞬窮屈になった場面があったが、それにめげることなく戸崎圭太の左鞭に応えるように一歩、また一歩と前を追いかけていく。

この時すでに右トモを落鉄していたというが、そんなことを微塵も感じさせない女王の走りを見せてくれた。

残り200m過ぎ。ついにステレンボッシュが先頭に立ち、あとは桜花賞時と同じく後続馬を捻じ伏せるかと思われたが……外から彼女を優勢いで飛んできた馬がいた。

それが、チェルヴィニアである。

馬群の外を回したチェルヴィニアは直線で懸命に前を追いかけていった。その姿は桜花賞とは全く異なるもので、ルメールの右鞭が入るとさらにギアを上げていく。

気が付けばクイーンズウォークを飲み込み、先に先頭に立っていたステレンボッシュに並んだ。

ルメールが信じ続けた素質馬とルメールとコンビを組んでGⅠで成果を上げた実力馬の叩き合いは最後にルメールの想いが勝ったか、チェルヴィニアが半馬身前に出たところがゴール。

樫の女王となったチェルヴィニア、そして現役最多タイとなるオークス3勝を誇るルメールは、自分が信じた彼女とともに4度目の樫のタイトルを手に入れた。

優勝騎手インタビューで「ただいま!」と笑顔でファンに手を振ったルメールだったが、チェルヴィニアの話題になると「今日は自信があった。直線は本当のチェルヴィニアの姿が見えたと思う」と力強くコメント。

数多の馬から選び抜いたパートナーを最後まで信じ抜き、最高の結果を出した男にファンからの拍手が鳴りやむことはなかった。

季節が秋になっても、冬を越えまた春を迎えても……チェルヴィニアとルメールのコンビは強い絆で結ばれ、今後もビッグタイトルを積み重ねていくことだろう。

■文/福嶌弘