京都国際、タイブレークでの初優勝 「タイムリーなき」甲子園決勝【甲子園2024】

AI要約

2024年夏、関東第一と京都国際の名勝負を振り返る。関東第一の堅い守り、京都国際の先発投手の好投、延長戦での激闘などが記憶に残る。

京都国際が10回表に1点を先制し、さらに追加点を奪って初優勝を果たす。延長戦の緊迫感と選手たちの一体感が試合を盛り上げた。

奥井捕手のリーダーシップや西村投手の勝負強さが光る一戦で、試合前の緊張や不安が勝利に変わる瞬間が描かれている。

京都国際、タイブレークでの初優勝 「タイムリーなき」甲子園決勝【甲子園2024】

2024年、夏。今年も甲子園で高校球児たちの熱戦が繰り広げられた。第106回全国高校野球選手権大会の名シーン、名勝負を振り返る。今回は、8月23日の関東第一(東東京)ー京都国際(京都)について。

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 試合前のシートノック。

 京都国際の捕手である奥井颯大は、実際に目にする関東第一の軽快な動きにちょっとだけ驚いた。

「ミスをしない堅い守りでレベルが高い。なかなか点が入りそうにないな……」

 その予感通り、スコアボードには「0」が並んだ。2回表、2死から京都国際の高岸栄太郎が放った打球は、完全にセンター前へ抜けるかと思われた。だが、関東第一の遊撃手である市川歩が好捕。素早く体勢を整えて、一塁へ正確な送球を見せる。3回表も市川だ。2死一、二塁から三谷誠弥が放った打球に対して、定位置から反応のいいダッシュを見せて華麗なグラブさばきで好捕。スナップスローで一塁へ送球して、京都国際のチャンスの芽を摘む。市川は言うのだ。

「守備では『このままいこう』と思ってプレーしていた。でも、点が入らずに同点のままだったので、イニングを追うごとに緊張が増しました」

 高度な守備力で耐えしのぐ関東第一に対して、京都国際の先発マウンドに立った中崎琉生も無失点を続けた。エースのボールを捕手はこう見ていた。

「終盤になって浮き出し始めましたが、今日は真っすぐもスライダーもまとまっていた」

 そして、奥井は言葉を加えるのだ。

「どっちも点が入る雰囲気がなくて、一つのミス、一つのプレーで流れが変わるなと思っていた」

 スコアボードが静けさを保ったまま、甲子園決勝では初となるタイブレークに突入した延長10回表。無死一、二塁から、京都国際は代打の西村一毅がバスターの構えから左前へヒット。満塁として、金本祐伍がフルカウントから押し出しの四球を選んで1点。両校合わせて19イニング目に得点が刻まれた。三塁走者だった奥井は自らの足で「遠かった」ホームを踏み、少しだけ緊張がほぐれた。

「我慢勝負が続いていた中で、やっと1点が取れてホッとした」

 三谷の犠飛で追加点を奪った京都国際は、10回裏のマウンドを2年生左腕に託した。無死満塁から内野ゴロの間に1点を失った西村は、なおも1死満塁とピンチを背負う。それでも、成井聡をファーストゴロに、そして坂本慎太郎を空振り三振に仕留める。

 最後の決め球は、得意のチェンジアップではなかった。

「キャッチャーを信じて投げた」と言う西村に、スライダーを要求した奥井は言う。

「今日の西村はチェンジアップがハマっていなかったので、スライダーに。ただ、最後は配球というよりも、気持ちの問題だと思っていた。西村には『気持ちを込めて投げてこい』と。それだけでした」

 タイムリーなき決勝で、西村が甲子園のど真ん中で両手を突き上げる。無失策で耐え続けた関東第一を退け、延長戦を制した京都国際が初優勝だ。

「最後も、チームとして束になって相手に向かっていけた」

 そう振り返る奥井の顔からは、試合前に抱いたわずかな不安が消えていた。

(佐々木 亨)

※AERAオンライン限定記事