絶対的な存在がいなくなり、ブラジルは大混乱…アディショナルタイムの劇的ドラマは選手交代の明と暗から生まれた【パリ五輪・女子サッカー】

AI要約

なでしこジャパンはアディショナルタイムの2ゴールで南米1位のブラジルを下し、決勝トーナメント進出に大きく前進した。

19歳の谷川が勇敢なプレーで同点ゴールを挙げ、PKを獲得して逆転勝利に貢献した。

劇的な試合展開の中、なでしこジャパンが難敵ブラジルに勝利。サッカーの怖さと難しさを再確認した。

絶対的な存在がいなくなり、ブラジルは大混乱…アディショナルタイムの劇的ドラマは選手交代の明と暗から生まれた【パリ五輪・女子サッカー】

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◇28日 パリ五輪 女子サッカー1次リーグ 日本2―1ブラジル(パリ)

 なでしこジャパンはアディショナルタイムの2ゴールで南米1位のブラジルを下し、決勝トーナメント進出に大きく前進した。

 選手交代の明と暗。後半11分に先制された日本は直後の同12分に攻撃力のある植木、同25分に清家を投入。それでも流れが変わらない。ブラジルは個の能力が高く、球際が強い。ボールを支配され苦しい時間帯が続いた。その流れが後半35分、変わり始めた。池田監督は谷川と千葉を投入し、谷川をボランチに置き、長谷川をトップ下に上げた。負ければ決勝トーナメント進出が厳しくなる一戦。最低でも引き分けるために、なでしこジャパンは点を取りにいくしかない。

 流れを決定的に変えたのは後半40分、ブラジルの選手交代だった。なんと、エリアス監督はエース、マルタをベンチに下げたのだ。警告を1枚もらい、動きも落ち始めていた。とはいえ、マルタは五輪6大会出場のレジェンド。38歳になったとはいえ、キープ力は圧倒的で、この日のブラジルの先制点はマルタのスーパーなスルーパスから生まれた。精神的な支柱であり戦術の核。ボールを預ければなんとかしてくれる絶対的な存在がいなくなり、ブラジルは大混乱に陥った。

 一方、19歳でこの試合が五輪初出場の谷川は、怖いもの知らずの強みを存分に発揮。点を取るしかない状況だから、ボランチのポジションから前へ前へとイケイケの攻撃参加。その勢いが同点ゴールを生んだ。

 後半44分、清家が左サイドからクロス。ペナルティーエリア内、逆サイドで受けた谷川が内側にドリブルで仕掛けると、逆を取られて滑った相手DFの右手が、ボールに当たった。VARの結果、PKの判定。追加時間2分、このPKを熊谷が決めて劇的な同点ゴール。しかし、ドラマはまだ終わっていなかった。

 追加時間6分、ハーフウエーラインの手前から清家がドリブルで仕掛ける。相手にカットされたが、相手のパスが谷川の目の前にきた。谷川は迷うことなくダイレクトでシュート。ゴールのやや右、30メートル弱のロングシュートは前に出ていたGKの頭上を越え、ゴールに吸い込まれた。

 エースストライカーの藤野がコンディションの問題でベンチ外。サイドで存在感を示していた清水がケガで戦列離脱。その上、この日は前半追加時間にPKを獲得しながら田中がGKに止められ、さらに後半早々に先制点を奪われるという日本にとっては最悪の流れ。一方のブラジルは初戦でナイジェリアに勝利し、この試合も圧倒的にボールを支配し、終了間際まで1―0でリードしていた。

 劇的で、残酷なコントラスト。なでしこジャパンが勝って、本当によかったのだが、サッカーの怖さ、難しさを改めて思い知らされた激闘だった。(写真はAP)

 ◆大塚浩雄 東京中日スポーツ編集委員。ドーハの悲劇、94年W杯米国大会、98年W杯フランス大会を現地取材。その後はデスクワークをこなしながら日本代表を追い続け、ついには原稿のネタ作りのため?指導者C級ライセンス取得。40数年前、高校サッカー選手権ベスト16(1回戦突破)