【社説】パリ五輪始まる 理念揺らぐ「平和の祭典」

AI要約

パリ五輪の競技が始まり、男女同数の選手が史上初めて出場する。

戦時下の開催となった今大会で、国際情勢の悪化に目を向ける必要がある。

五輪の問題点や未解決の課題、東京大会の反省など、様々な観点からパリ大会に期待や懸念が寄せられている。

【社説】パリ五輪始まる 理念揺らぐ「平和の祭典」

 パリ五輪の競技が始まった。8月11日の閉幕まで32競技、329種目に史上初めて男女同数の選手が出場する。

 26日(日本時間27日未明)の開会式では、各国・地域の選手団がセーヌ川で船上パレードをする。パリらしく華やかに演出されるだろう。

 一方で今大会も戦時下の開催となった。「平和の祭典」の理想と現実の落差から目をそらすことはできない。

 五輪を取り巻く国際情勢は3年前の東京大会より悪化している。

 2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は終息が見えない。パレスチナ自治区ガザでは23年10月以降、イスラム組織ハマスとイスラエル軍との戦闘が続く。犠牲者は増えるばかりだ。

 パリ大会に向け、国連総会は「五輪休戦」を決議した。五輪開幕の7日前からパラリンピック閉幕の7日後までが対象期間だが、もはや形骸化している。

 紛争当事国に対する国際オリンピック委員会(IOC)の対応は一貫性を欠く。

 ロシアと同盟国ベラルーシの選手を国際大会から除外するよう主導しながら、五輪は国の代表ではない個人資格の「中立選手」として参加を認めた。侵攻を積極的に支持しないなどの条件を付け、審査を通過した約30選手が両国から出場する予定だ。

 対照的にイスラエルには何の処分もしなかった。IOC内外から批判の声が上がるのは当然である。

 ウクライナの選手はロシア選手らと一緒に出場することへの苦悩を明かした。パレスチナ・オリンピック委員会はイスラエルの除外をIOCに要請している。

 満足な練習が積めなかった選手もいるはずだ。主役である選手が競技に専念できない現状は残念でならない。

 戦時下の開催をはじめ、今日の五輪が抱える問題の数々を私たちは東京大会で目の当たりにした。

 新型コロナウイルス禍で1年延期した末、ほぼ無観客で開催を強行したIOCの強権的姿勢、行き過ぎた商業主義や大会の肥大化はパリ大会で改善されるか。ジェンダーや環境への配慮は十分か。しっかり目を凝らしたい。

 日本オリンピック委員会(JOC)も五輪との新たな向き合い方を模索している。

 一つはメダル至上主義からの脱却だ。夏季大会で日本が獲得したメダル総数は499個で、パリ大会序盤で500個に達する。JOCは「金メダル20個」の目標を非公表にすることも検討した。大きな変化と言える。

 選手団の主将は廃止した。戦後、夏季五輪に初参加した1952年のヘルシンキ大会から指名していたが、公式行事などの負担が重かった。

 選手が過度な重圧から解放され、魅力あるプレーが増えるのであれば歓迎すべきことだ。スポーツの価値向上にもつながるだろう。