W杯で「完封」勝ち、世界1位スペインとの初戦は熊谷紗希「2つのシステム」が武器に【メダル獲得へ「なでしこジャパン」パリ五輪の戦い方】(3)

AI要約

女子サッカー日本代表の準備と戦術についての考察。

池田監督の戦術変更に対するアプローチと選手の柔軟性。

選手個人の多様性とシステムの変更による強み。

W杯で「完封」勝ち、世界1位スペインとの初戦は熊谷紗希「2つのシステム」が武器に【メダル獲得へ「なでしこジャパン」パリ五輪の戦い方】(3)

 パリ五輪の開幕が近づいている。4年に一度のスポーツの祭典とあって、さまざまな競技が注目されているが、サッカー女子日本代表にとっても、大きな意味を持つ大会だ。なでしこジャパンは、どのようにオリンピックに臨むべきか、サッカージャーナリスト後藤健生が考察する。

 さて、一つの課題として考えられるのは、前半、相手が退場者を出した後、攻撃がうまく噛み合わなかった時間帯での対応だ。

 選手たちの声を聞いても「うまくいっていない」、「何かを変えなければいけない」と、もどかしさを感じていたようだ。

 では、前半のうちに3バックに変更することはできなかったのだろうか? それとも、プレー中の変更に不安があるのか?

 試合後の会見で、その点を池田太監督に質してみたところ、回答は明確なものだった。

「前半に変えることも考えていたが、同じ形のままでどういう気づきがあるのかを見たかったので、システムは変えずに観察していた」(監督の言葉通りの引用ではなく、要約)

 つまり、「変えようと思ったら、いつでも変えられる」ということでもあるのだろう。だが、池田監督はシステム変更によって問題を解決してしまうよりも、そのままの形で選手たちがどう反応するのかを見たかったのだ。

 6月のワールドカップ2次予選のシリア戦で、男子日本代表は前半は3バックで戦い、後半は4バックに変更するテストをした。シリアの試合展開という意味では、必要はなかった変更だった。森保一監督にとってはテストの意味合いが大きかったのだろう。

 2022年のカタール・ワールドカップ直前にようやく3バックの形もこなせるようになった男子日本代表。カタール大会では、そのシステム変更を有効に使ってドイツとスペインを倒したものの、今でもやはり自由自在に2つのシステムを使い分けるには至っていない。だからこそ、シリア戦ではハーフタイムでのシステム変更が話題になったのだ。

 だが、女子代表はそれよりはるかに先を行っている。

 もともと、伝統的に4バックで戦ってきた日本の女子代表(なでしこジャパン)。2021年に就任した池田監督は、ワールドカップまで1年を切った2022年夏になって3バックに取り組み始め、ワールドカップでは3バックを基調に戦ってベストエイト進出を果たした。

 すると、それまで最終ラインの中心だった熊谷紗希をアンカーで起用する4バックにトライし始めて、それもようやく板についてきたところなのだ。

 熊谷というチームの中で最も経験値が高い選手がセンターバックもアンカーもこなせるので、システム変更もスムーズに行く。なでしこジャパンの場合、試合の途中でシステムを変えても話題にもならないくらいに熟成してきているのだ。

 前半は、敢えてシステム変更をせず、後半になって変更によって問題を解決してしまったあたりに、チームの完成度の高さを感じたのは僕だけではあるまい。

 たった18人の選手で、中2日で6試合を戦うオリンピック。選手個人個人のポリバレント性とともに、2つのシステム(前の組み方を変えれば、さらに種類は増える)を自由に使いこなせるというのは日本の大きな武器となるだろう。