「高校で野球はやめて、大学では普通に暮らして…」桐光学園を苦しめた2年生エースに報道陣が「もったいない」と叫んだ夏の午後

AI要約

横浜栄の2年生エース・本多凌が8回を6安打2失点で完投し、感動的なピッチングを見せた。

重要な一戦で感じた楽しさと強豪校との戦いでの成長を実感した本多凌は、まだ高校2年生ながら進路について真剣に考えている。

神奈川の高校野球のレベルの高さと、公立校からも優れた選手が出てくることについての興味深い洞察が示された。

「高校で野球はやめて、大学では普通に暮らして…」桐光学園を苦しめた2年生エースに報道陣が「もったいない」と叫んだ夏の午後

◆第106回全国高校野球選手権神奈川大会 ▽2回戦 桐光学園2―1横浜栄(10日・サーティーフォー相模原)

 強豪校の監督は「夏の初戦となる2回戦の“入り”が一番難しい」と口をそろえる。どんなにタレントぞろいのチームでも、硬さが力みにつながってしまう。一方で相手は1回戦に勝利し、慣れと勢いを携え、捨て身でぶつかってくる。

 そんな前提があったとしても、県立校・横浜栄の2年生エース・本多凌のピッチングは、実にほれぼれとするものだった。8回を6安打2失点で完投し、8奪三振を奪った。試合後は悔し涙に暮れながら、会見場に姿を現した。

 「5回に2失点したところで、自分の気が抜けてしまって…。変化球を使うタイミングがもうちょっと早く変えられていたら、5回も抑えられたんじゃないかと思うと、情けない気持ちでいっぱいです」

 身長178センチから放たれる自己最速は140キロ。この日の最速は139キロを計測した。スライダーも切れ、二回り目からはカーブも織り交ぜ、緩急で幻惑した。圧巻は1-2で迎えた8回裏、2死三塁のピンチ。5番の中川拓海(3年)をカットボールで空振り三振に仕留めた。拳を握り、ほえた。「一番いい球が放れたと思っています」

 試合前は桐光ナインへと接近。「『どんぐらいデカいのかな?』って。180センチ以上が何人もいると聞いていたので」と好奇心旺盛に“取材”した。「バッターが打席に立つと『怖いな』って。でも、楽しむ気持ちが強かった。強豪が相手だから、下克上の気持ちを持って。強い相手だからこそ、楽しむという気持ちを持ってやりました」。いつの間にか、涙は乾いていた。

 まだ高校2年生だ。「卒業後の進路は、どう考えているんですか」。そんな問いを発してみた。すると、こんな答えが返ってきた。

 「高校で野球はやめて、大学では普通に暮らしていこうかなと思っています」

 報道陣が一斉に声を挙げた。

 「何ともったいない!」

 「考え直した方がいいよ~」

 「才能あるよ!」

 本多は照れ笑いを浮かべ、こう続けた。

 「高校野球もやるか、怪しかったんです。行ってみたら、強い高校だったんで、『やってみようかな』って」

 子供の頃から高い意識で野球に取り組んできた強豪私学の選手たちが、激戦区・神奈川のハイレベルな環境を作り上げているのは自明であり、素晴らしいことだと思う。そしてもう一つ、こういった公立校からも優れた選手が出てくるのが、神奈川の“もう一つの魅力”に他ならない。

 この一戦を契機に、どんな投手へと進化していくのだろうか。野球好きなら「本多凌」という名前を、覚えておいた方がいい。(加藤 弘士)