「蝶」の羽ばたきが「竜巻」にすらなりうる…「予測不可能」な「因果」の「無限連鎖」

AI要約

太陽エネルギーによって大気が暖められ、気象現象が発生する仕組みについて解説。大気の大循環やエネルギーの出入りによる地表の温度分布を明らかにする。

赤道地域から高緯度地域へエネルギーが運ばれる過程や、地表や大気、地形がエネルギーの流れに与える影響について詳細に説明。

地球全体のエネルギーバランスや大気・海洋の熱輸送が、地球規模の気象学を理解する上で重要な要素であることを示唆。

「蝶」の羽ばたきが「竜巻」にすらなりうる…「予測不可能」な「因果」の「無限連鎖」

「謎解き・海洋と大気の物理」、「謎解き・津波と波浪の物理」で知られるサイエンスライター保坂直紀氏による『地球規模の気象学』。

風、雲、雨、雪、台風、寒波……。すべての気象現象は大気が動くことで起こる。その原動力は、太陽から降り注ぐ巨大なエネルギーだ。

赤道地域に過剰に供給された太陽エネルギーは大気を暖め、暖められた大気は対流や波動によって高緯度地域にエネルギーを運ぶ。

ハドレー循環やフェレル循環、偏西風が、この巨大な大気の大循環の中心を形作る。大気の大循環を理解すれば、気象学の理解がより深まるはずだ。*本記事は、保坂 直紀『地球規模の気象学』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。

地球全体でみると(図2─4)、太陽からの短波放射でやってくるエネルギーは、雲や大気、地面で反射され、3割(22+9)が宇宙空間に戻ってしまう。そして、大気や雲に吸収されるのが2割。地表に吸収されるのは全体の半分(49)だ。

このエネルギーで地表が温まり、こんどは長波放射でそのエネルギーが地表から放出される。この長波放射のエネルギーは地球が太陽から受ける短波放射を上まわり(114)、大気を暖める。地表から放射される赤外線(長波放射)のなかで宇宙空間までそのまま逃げていくのはわずか(12)で、エネルギーの9割(102)は大気や雲にとどまる。

じつは、地表を温めるエネルギーは、太陽から届く短波放射の「半分」だけではない。地表からの赤外線で暖まった大気も、逆に地表に向けて赤外線を出して地表を温める。そのぶん、大気はエネルギーを失うことになる。

地表から出ていく長波放射は、この大気から受け取る量を差し引きすると(114-95=19)、太陽から届いたさきほどの「半分」の4割。太陽からきたエネルギー全体の2割ということになる。このほかに、長波放射と同程度(23)が「潜熱」として大気に与えられる。これも大気の運動をブーストする重要な熱源だ。これについては、のちほど詳しく説明しよう。そして残り(7)は、地表の熱が大気にじわじわ伝わる「伝導」などによる加熱だ。

いまお話ししたのは地球全体をみた場合だが、大気の大循環にとって重要なのは、出入りするエネルギーの緯度による違いだ。太陽からくる短波放射も地表から出ていく長波放射も、おおざっぱにいえば、赤道付近でもっとも強く、南北に離れるにしたがって弱くなる。

ただし、その両者は、おなじような強弱の形をとるわけではない。赤道を中心とする低緯度では吸収するほうが多く、高緯度では放出するほうが多い。その変わり目は北半球、南半球とも40度くらいの緯度だ。北半球で緯度40度といえば、だいたい日本の位置。太陽からくるエネルギーの出入りだけを考えると、これより南の地域はひたすら加熱され、北の地域は冷える一方ということになる(図2─5)。

だが、実際にはそうなっていない。低緯度は低緯度なりの、高緯度は高緯度なりの気候が保たれているのは、大気や海の大循環が低緯度から高緯度へ熱を運び、その温度差をならしているからだ。そして、この実現された実際の地表温度に対して、それぞれの場所で長波放射の強さが決まる。

ひとくちに地表といっても、陸もあり海もある。こうした地形もエネルギーの出入りに大きく影響する。たとえば、北アフリカのサハラ砂漠では、緯度が低いにもかかわらず、出ていくエネルギーのほうが多い。太平洋西部からインド洋にかけての赤道沿い海洋では、ほかの赤道沿いの地域に比べて、吸収するエネルギーのほうがかなり多い。