「最古の宇宙」を激写せよ!「ノーベル賞級の発見」を狙う人工衛星の「スゴすぎる仕組み」

AI要約

宇宙はビッグバン理論やインフレーション理論などで説明されてきたが、未だに多くの謎が残っている。

宇宙創生の秘密に迫るため、遠方を観測することで過去の宇宙を見ることが原理的に可能であることが説明されている。

しかし、宇宙誕生から30万~40万年後までの姿は見ることができず、宇宙の晴れ上がりが起こるまでは観測が困難である。

「最古の宇宙」を激写せよ!「ノーベル賞級の発見」を狙う人工衛星の「スゴすぎる仕組み」

宇宙はどのように始まったのか……

これまで多くの物理学者たちが挑んできた難問だ。火の玉から始まったとするビッグバン理論が有名だが、未だよくわかっていない点も多い。

そこで提唱されたのが「インフレーション理論」である。本連載では、インフレーション理論の世界的権威が、そのエッセンスをわかりやすく解説。宇宙創生の秘密に迫る、物理学の叡智をご紹介する。

*本記事は、佐藤勝彦著『インフレーション宇宙論 ビッグバンの前に何が起こったのか』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

次に問題になるのは、このようなインフレーション理論による宇宙創生というストーリーは、単なるお話にすぎないのか、それとも何らかの方法で証明できるのかということです。

ここまでこの本を読んできて、「なるほど理論的にはきれいな話ができている。だけど、何ひとつ証拠はないのでは?」「宇宙が誕生して『10のマイナス36乗秒後』のことなんか本当にわかるのか?」といった疑問を持たれる方がいても当然のことです。たしかに、人類が137億年前にまでさかのぼって宇宙の初期の姿を見るなど普通はできないことですし、そのとき起きた現象を証明するなど、ありえないことのように思えます。

それにもかかわらず、われわれは先ほどのグランドシナリオを主張するわけです。そして、137億年前の宇宙開闢から10のマイナス36乗秒後、インフレーションが起こった頃の様子を、原理的には写真に撮ることができると主張しているのです。「何でそんなことができるのか」と思われるのもまた当然のことですので、図「宇宙では遠くを観測すれば過去が見れる」をご覧いただきましょう。

地球を扇の要にして、遠方のものほど中心から離れるように描いてあります。私たちは観測から、私たちの銀河である天の川銀河の隣、230万光年の彼方にアンドロメダ銀河があることを知っています。それから、2億光年彼方には、グレートウォールと呼ばれる壁のような銀河の大集団があることも知っています。さらに、この壁は5億光年ほどの大きさを持つ蜂の巣の穴のような構造をしていることも。

こうして、だんだん遠くを見ていくと、現在、130億光年ほどの彼方まで見ることができるのです。

ここで、考えてみてください。アンドロメダ銀河からやってきた光は、光の速度で230万年かかって私たちの地球に到達した光なのですから、現在、私たちが見ている光は230万年前に出た光です。とすると、いま、私たちが見ている星のうちのいくつかは、いまこの瞬間には、もう爆発してしまってなくなっているかもしれません。2億光年彼方にあるグレートウォールの場合は、いま見えている明るい星(巨大な星)のほとんどは、すでに寿命が尽きてなくなっていることでしょう。

このように、遠くを見れば宇宙の過去を見ることができるのです。ですから、原理的には、本当の宇宙の果てを観測することができれば、まさに宇宙の開闢を見ることが可能だということがわかるはずです。

ここで「原理的に」と言ったのは、現実には見ることができないからです。それは単純な理由からです。実は誕生して30万~40万年後までの宇宙は、曇っていて見ることができないのです。その頃までの宇宙は高温で、素粒子が飛び回っている火の玉でした。光がこの火の玉の中を進もうとしても、すぐに素粒子にぶつかってまっすぐ進めないため、一寸先も見ることができなかったのです。まるでぶ厚くて熱い雲の中にいるような状態です。やがて宇宙の膨張によって温度が下がり、その雲が晴れ上がるのが30万~40万年後頃なのです。これを「宇宙の晴れ上がり」といいます。ですから、それ以前の宇宙の姿は、光では見ることができません。