「ローレンツ力」を使うモーターの原理は「発明当時」から変わっていなかった!じつはリニアモーターカーにも使われている「ローレンツ力」

AI要約

ローレンツ力を利用した技術や応用について紹介されており、モーターやリニアモーターカーなどの例が挙げられている。

ローレンツ力を使った技術の現状や問題点に触れられており、実用化の可能性や課題が共有されている。

ローレンツ力を利用した未来の技術や応用に期待が寄せられており、宇宙船の打ち出しからリニアモーターカーの進化まで幅広い展望が示されている。

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本記事では、〈知名度があまりにも低い「ローレンツ力」ってなにもの?…じつは身近に存在する「電磁気学的な力」の正体〉にひきつづき、ローレンツ力についてくわしくみていきます。

※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。

ローレンツ力を使ってループを回転させるというこのモーターのしくみは非常に単純、かつ、効率的で、基本的に発明されたときから変わっていない。

その点、長い間改良を続けてきたエンジン(内燃機関)とは対照的だ。電線で電流を供給すればいい軌道車(レールを走る小型車両)については、はるか昔にエンジンはモーターにとって代わられたが(ディーゼル機関はほぼすべて電車に置き換えられた)、電線に沿って走るわけにはいかない自動車の場合、電力供給の問題から長いこと電気自動車はエンジン駆動の自動車に勝てなかった。

それが、効率的な蓄電池の登場で、とうとう自動車でもモーターがエンジンにとって代わろうとしているのは周知のとおりだ(いわゆるEVブーム)。

モーターはありとあらゆる家電製品や産業機械に組み込まれているが、ローレンツ力の応用例は、モーター以外には思いのほか少ない。その数少ない例外をいくつか紹介しよう。

レールガンは、ローレンツ力を用いた最新のハイテク技術だ。火薬を使わずに電磁力の原理で弾を高速で撃つ。文字どおり、電気を通しやすい素材で作ったレールの間に弾を置き、電流と磁場を発生させて射出する。

これまで兵器マニアなど一部にしかわからない言葉だったが、『とある科学の超電磁砲(レールガン)』という漫画・アニメが大ヒットしたので、この言葉を聞いたことがある若い人も増えたのではないだろうか。

エンジンよりも構造ははるかに簡単なのに、実用化されていないのはやはり電力供給に問題があるからだ。

レールガンは物体を発射する装置だが、いちばんの応用は銃器だろう。だが、銃器は野外の、電力供給が難しい環境でも使えなくてはならず、効率のよい電池がない場合、火薬で弾丸を発射する銃器に可搬性や連射性能で劣ってしまう。

据え付け型の大砲などの場合、電力供給の問題は軽減するとはいうものの、既存の大砲と同等以上の威力を持たせる場合、大電流の供給が問題になる。レールガンを遠征軍に同行させても、敵地に攻め入った先に電源があるとは限らないし、一方、守備側の要塞にレールガンを装備する場合にせよ、包囲されれば真っ先に外部からの電力供給は断たれるだろう。

こうしたデメリットに目をつぶることのできる、大砲でも出せないような大出力(たとえば、宇宙空間に届くとか)が要求され、技術的な難易度が格段に上がってしまって、まだレールガンは実用に供されていない。それでも、僕らの子孫はレールガンで宇宙船が地球外の空間に打ち出されるのをきっといつか目にするに違いない。

レールガンは実用化されていない技術だが、ほぼ同じようなしくみですでに開発が進んでいるものとしてはリニアモーターカーがある。レールガンはローレンツ力で物体を直線的に動かす技術なのだから、そのまま列車の動力に使えるのは明らかだろう。

すでに鉄製の車輪とレールで走る列車という優れた技術があるのに、リニアモーターカーを開発するのにはひとつ理由がある。それは、ローレンツ力を使って加速して推進するというのとは別に磁気浮上を併用するためだ。

超伝導体といって、電気抵抗がゼロの物質がある。この物質は内部に磁場の侵入を許さないという性質(完全反磁性)を持っているので、磁場中に置くと反発して浮き上がる。ローレンツ力を発生させるためにもともと磁場はあるわけで、それは進行方向に垂直なので、ついでに強力な超伝導体を仕込んでおけば、物体を浮き上がらせることもできる。

車体を浮き上がらせることができれば、摩擦を減らすことができるので、さらに速い速度で走行する可能性が開ける。実際、世界最高速の営業運転列車は中国のリニアモーターカーである(時速430km)。もっとも、軽減されるのはあくまで車輪の転がり抵抗とかで、もっとも大きな問題である空気抵抗は変わらないので、そこまで劇的な進歩はない(日本の新幹線でも時速320kmの営業速度を達成している)。

ちなみにこの中国のリニアモーターカーは路線全長が30kmしかないため最高速度に達したらすぐ減速しないといけないという残念な結果になっている。30kmを仮に時速430kmで駆け抜けたら、5分弱しかかからないうえに加減速にある程度時間がかかるからだ。ぜひ、路線を延長してもらって最高時速を満喫できるようになってほしいものだ。

リニアモーターカーの推進力は、N極とS極を交互に並べた板をわずかにずらして置くことで発生させる。NとSが引きあい、NとN、SとSは反発するので、ちょうどNのところにSが来るように置かれていない限り、板はどっちかに「動く」。

どっちかに動くだけでは、NとSが揃った時点で止まってしまうので永続的な推進力になりえないが、どっちか片一方を電磁石にしておき、NとSが揃ったタイミングで電磁石のほうのN極とS極を逆転させれば、瞬時にNとN、SとSが向きあう配置になってまた動き始める。この「電磁石のほうのNとSの交換」をうまいタイミング(電磁石のNと永久磁石のS、電磁石のSと永久磁石のNが揃った瞬間)に行えば、永続的な推進力が得られる道理になる。

リニアモーターカーであるためには、推進に磁気を使えばいいだけで、浮かすことは必須ではない。したがって、車輪走行のリニアモーターカーというのは当然ありうる。日本には磁気浮上方式のリニアモーターカーは愛知県のリニモ(営業キロ数8.9km)だけだが、車輪走行方式のリニアモーターカーは技術的な達成要件が低いこともありたくさんある。首都圏で営業運転している地下鉄の中にももう何十年も前から運行している車輪式リニアモーターカーは存在する。

大量の正電荷か負電荷を1ヵ所に集めないと使えない静電気力と異なり、電流と磁場さえあれば使うことができるローレンツ力は大きな応用可能性を秘めている。いまのところ、モーターを除けば、ローレンツ力を利用した実用的な応用は少ないが今後増えてこないとも限らない。