脚の「切断手術」をして仲間を救うアリ、ヒト以外で初の発見に研究者驚き、成功率9割超

AI要約

野生動物がさまざまな治療方法を行っていることがわかってきた。キツネザルやチンパンジーなどが治療行動を示し、最近ではフロリダオオアリが「切断手術」を行うことが報告された。

フロリダオオアリは脚の負傷に対して切断手術を行い、治療を受けたアリは生存率が高いという結果が出ている。治療を受けるアリは姉妹から遠ざけられるが、協力して治療を受ける様子が観察されている。

昆虫が痛みを感じるかどうかは不明だが、フロリダオオアリの治療方法は有効であり、適切な手当てで生存率が向上している。

脚の「切断手術」をして仲間を救うアリ、ヒト以外で初の発見に研究者驚き、成功率9割超

 近年、野生動物がさまざまな方法で治療を行うことがわかってきている。キツネザルは腸内寄生虫から身を守るため、かみ砕いたヤスデを使うことがある。チンパンジーとオランウータンは傷に湿布を貼る姿を目撃されている。そしてついに、フロリダオオアリ(Camponotus floridanus)が「切断手術」を行っていることが、7月2日付けで学術誌「Current Biology」で報告された。ヒトは3万年以上前から切断手術を行ってきたが、動物界では初の事例だ。

 フロリダオオアリのコロニーでの生活は、特にほかのコロニーが近くにある場合、危険と隣り合わせだ。日没後、近くのアリ同士が戦争を繰り広げ、多くの負傷者が出ることも珍しくない。

「腿節(たいせつ、5つに分かれた昆虫の脚の3つめ)から上を負傷した場合、その脚を切断することになります」と、論文の筆頭著者で、ドイツ、ビュルツブルク大学の行動生態学者であるエリック・フランク氏は話す。「脚のもっと下を負傷した場合、驚くことに、切断することはありません」

 しかも、切断するかどうかにかかわらず、治療を受けたアリは、姉妹(働きアリはすべてメス)から遠ざけられて治療を受けられなかったアリより、はるかに高い確率で生き残る。

「脚を切断するという別の治療を行っているだけでなく、傷の状態を正しく診断し、それに応じた治療を行っているのです」。

 捕食者に襲われると、トカゲは尾を、昆虫やクモは脚を捨てる。これらは自切と呼ばれる防御行動だ。一方、フロリダオオアリの切断手術は全く別ものだ。

 まず、傷ついたアリは喜んで治療を受けているように見える。

「彼らがこの切断手術にどこまでも自由に協力しているのが印象的です」とフランク氏は話す。「片方(のアリ)が傷ついた脚を差し出し、もう片方が何分間も猛烈にかみついているのが見えるでしょう……そして、傷ついたアリは文句を言っていないように見えます」

 アリをはじめとする昆虫が痛みを感じるかどうか、どれくらい感じるかはまだはっきりしていないが、フロリダオオアリの治療選択はうまくいっているようだ。

 腿節より下の部分を負傷した場合、コロニーの姉妹は傷を口で念入りにグルーミングしたが、これはおそらく、致命的な感染症を引き起こす病原菌を取り除くためだろう。論文によれば、下から2つめの脛節(けいせつ)を負傷した場合、巣の姉妹にグルーミングされたアリの生存率は約75%で、姉妹から離されたアリの生存率はわずか15%だった。

 同様に、腿節を負傷したアリは、切断手術の成功率が90~95%だったのに対し、治療を受けなかった場合、約40%しか生き延びることができなかった。サンショウウオなどと異なり、アリの脚は失われたら再生しないため、生き残ることが目標だ。

 傷の手当てをするアリが目撃されたのはこれが初めてではない。フランク氏らは以前、シロアリを狩るマタベレアリ(Megaponera analis)には抗菌性化合物やタンパク質を生成する器官(腺)があり、傷を負ったら、それらをたっぷり塗ることを発見している。

 この器官はほとんどのアリに見られるが、フロリダオオアリは進化の過程で失ってしまったようだ。だからこそ、フロリダオオアリは独自の治療法を進化させたのかもしれないとフランク氏は考えている。

「アリの多様性は、少なくともネズミとゾウあるいはライオンとの違いに匹敵します」とフランク氏は話す。「そのため、アリの種が異なれば、行動のレパートリーや自然史も大きく異なります」