88歳空手黒帯、病なんかに人生を奪わせない…40年闘病で完治「第二の人生やりたいことを」

AI要約

祖父江宏至さん(88)が、極真会館で黒帯(初段)取得に成功し、珍しい高齢での昇段を果たす。

若い世代と同じ稽古に励む祖父江さんの姿や、コロナ禍での困難を乗り越えたエピソード。

若い人との交流や挑戦を通じて、元気でたくましい生き方を展開する祖父江さんの魅力。

88歳空手黒帯、病なんかに人生を奪わせない…40年闘病で完治「第二の人生やりたいことを」

 岐阜県大垣市島町の祖父江宏至さん(88)が、国際空手道連盟極真会館(東京)の昇段審査に合格し、黒帯(初段)を取得した。同会館総本部も「これほど高齢での初段昇段は全国でも珍しい」と驚く。20代で罹患(りかん)したC型肝炎が70歳手前で完治したのを機に「第二の人生、やりたいことをやろう」と体を動かし始め、空手教室の門をたたいた祖父江さん。7年で黒帯という悲願を果たし、早くも「91歳までに弐段になる」と新たな目標を掲げ、稽古に打ち込んでいる。

 「エイ! エイ!」。大垣市林町のアクアウォーク大垣内にある同会館岐阜支部の大垣教室。祖父江さんは週1回、子や孫ほどの世代に交じり、力強く拳を突く。指導に当たる伊藤慎支部長(51)も「空手と向き合う姿勢には見習うべきものがある」と感心する。

◆「年のことなんか考えない」目標宣言、自分追い込む

 若い世代と同じ稽古に励み「(血圧が急低下して)3度倒れた」と苦笑する祖父江さん。2020年来の新型コロナ禍では、感染予防のため教室を1年半休んだ。「正直に言うと、あのまま辞めてしまうと思った」と伊藤支部長。ところが祖父江さんはワクチンを打つや再び教室に姿を見せ、以前にも増して熱のこもった稽古に励み、昨年12月の審査会で昇段を果たした。

 「自分では年のことなんか考えてない。目標を決めて周囲に宣言し、自分にプレッシャーをかけると、力になるでしょう」と屈託なく笑う。

 愛知県一宮市出身で、8人兄弟の7番目として母子家庭で育った。高校を卒業し、大垣市内の紡績会社で働いていた26歳の時、C型肝炎の診断を受け、医師から「(寿命は)60歳」と宣告された。体力がなく、仕事の合間に点滴を打ったり休憩したりするため、同僚からは「サボっている」と白い目で見られた。

◆絵本でコンテスト入賞、織物も…続けた挑戦

 勤務先の倒産や転職を経て、個人事業をしていた67歳の頃、新薬の治験が効果を見せ、副作用に耐えて約1年後に完治。「人生の真ん中を取られたけど、病気ばかりの人生ではつまらない。やりたいことをやろう」と昔から好きだった絵に打ち込み、絵本を作ってコンテストで入賞したり、手製の織機で織物を作ったりと次々に挑戦。「屋内でできる運動を」と81歳で空手を始めた。

 今後は弐段昇段を目指しつつ「瓦割りやバット折りもやってみたい」とにやり。「僕があれこれやっていることは、きっと先祖の誰かがやり残したこと。昔からずっと遺伝子が受け継がれ、僕はほんの一コマを生きているに過ぎない。だから1日も無駄にしないように生きていきたい」

【記者のひとこと】

 自宅にサンドバッグをつるし、突きや蹴りの稽古をしているという。「若い人に負けるのは嫌。皆が300回やるなら、自分も300回やる」。年齢を感じさせない、というより、この世代ならではのたくましさを感じる。同時に、元気の秘訣(ひけつ)は「若い人とたくさん話をすること」と笑顔。剛と柔を兼ね備えた空手家に、学ぶことばかりだった。