お客さまは神様ですか? 社会問題化するカスハラ 日本と海外の現状

AI要約

カスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題化しており、労働者や店舗に深刻な影響を与えている。

日本のサービス業においては、お客様第一主義が浸透しており、労働者の我慢と被害が増加している。

専門家による分析では、カスハラの増加背景が文化や社会的要因によるものであり、今後の被害増加が懸念されている。

お客さまは神様ですか? 社会問題化するカスハラ 日本と海外の現状

 増加するカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題となっています。しつような嫌がらせが原因で退職や休職に陥る労働者が増えていて、廃業に追い込まれる店舗もあり、国内企業の生産性の阻害要因になっています。「お客さまは神様」の有名なフレーズがあるように、日本のサービスは従業員の高い意識に支えられてきました。その反面、日本のカスハラの法整備は国際標準から遅れ、抑止や救済の仕組みは不十分です。「お客さまは神様」でしょうか?

 茨城県のラーメン店が2022年以降、特定の客の嫌がらせを受け続けて閉店に追い込まれ、その様子を伝える店主のSNSへの投稿が全国的な注目を集めました。追加注文の繰り返しを控えるよう求めるやりとりから嫌がらせが悪化し、商品に大量のつまようじをまいて帰るなど、店員に恐怖を抱かせる行為がしつこく続いたということです。

 10年ほど前には客がコンビニや娯楽施設の店員に対し、サービスへの不満を理由に長時間土下座をさせる映像が相次いでSNSに投稿され、カスハラの怖さを印象づけました。後に客が刑事罰を受けた例もありますが、店側の努力でカスハラのエスカレートを止める難しさが露呈しています。

 厚生労働省が5月に公表した職場のハラスメントに関する調査結果では、「過去3年間に従業員がカスハラを受けた」と答えた企業は27%で、23%の企業が「増加した」と答えました。労組や企業の各種調査でも被害の増加傾向が顕著です。

 客と労働者の力関係は、なぜこれほど一方的になってしまっているのでしょうか。専門家の間で多く指摘されるのは、日本人のサービス精神の高さと、法制度の遅れです。

 「お客さまは神様です」のフレーズは昭和の人気歌手三波春夫さんが司会者との掛け合いの中で発し、流行したとされています。国内外の経営者に影響を与えた京セラ創業者稲盛和夫さんは「お客さま第一主義」を信条に挙げました。2人とも自著で、これらは自分自身を律するための言葉だと解説していますが、誤解とともにひとり歩きし、今もカスハラ被害の各種調査で頻出します。利用者は要求を通すために使用し、労働者には我慢の意識をもたらしている様子が見えます。

 東京都は23年度に実施したカスハラ防止対策の検討会議で、専門家の研究を基に、カスハラを増加させている6項目の心理的、社会的背景を示しました。おもてなしを美徳とする文化や企業間競争の過熱でサービスの期待値が高まる一方、不祥事などによる企業への不信感が苦情のハードルを下げ、サービスが期待に沿わない場合に不満を発露させる人が増えている―といった分析です。対策がなければ、被害が今後も増える可能性を示唆しています。