抹茶ブームをつかめ! 原料生産量はトップ独走、2位京都の1.6倍…てん茶の国内最大産地・鹿児島の戦略を追った

AI要約

鹿児島県でてん茶の生産が急拡大し、抹茶人気に支えられ需要が高まっている。

生産量は京都を追い抜き全国トップに。海外向けの需要も増加している。

しかし、原料供給基地に留まる危機感もあり、抹茶工場の整備やブランド化が課題である。

抹茶ブームをつかめ! 原料生産量はトップ独走、2位京都の1.6倍…てん茶の国内最大産地・鹿児島の戦略を追った

 抹茶と言えば京都の宇治や愛知の西尾が有名だが、原料となるてん茶の生産量は鹿児島県が近年、全国トップを独走する。消費が振るわない煎茶に比べ、和食ブームや健康志向を背景とした海外の抹茶人気を追い風に需要が高い。既存の品種から生産できることもあり、茶園の転換や加工場を新増設する動きが広がる。

 今年3月、菊永茶生産組合(南九州市)のてん茶工場と冷蔵保管庫が落成した。南薩地域で最大規模。国の交付金を活用し総事業費6億円余りをかけ整備した。

 煎茶用に植えた品種でも管理・加工方法を変えればてん茶にできる。これまで茶園の25%をてん茶に仕向けていたが、2024年産から50%へ引き上げた。

 契約取引する県外企業へ出荷しており、菊永忠弘組合長は「相場にあまり左右されず安定して収入が得られる。今年は煎茶が安かったが売り上げは前年の120%くらい」。

■輸出へ有機栽培拡大

 機械化が進み、多様な品種を栽培する鹿児島の産地はてん茶への適応が早かった。ここ10年で生産を急拡大し20年産で京都を追い抜き日本一に。23年産は1585トンで2位京都の1.6倍、全国シェア4割に迫る。工場も23年度は9件新増設され計19工場となった。

 単価が低くなる遅場産地に茶園を持つ東製茶(日置市)は、今年から生産を本格化した。東裕一郎社長は「量で売り上げをカバーしてきたが、年々難しくなっている。てん茶が起爆剤となれば」と期待する。

 煎茶はリーフ茶離れが進み価格が低迷する。県茶市場では一番茶本茶で平成前半に平均単価は2500円前後だったのが、24年産は1827円だった。一方で、海外の抹茶需要に支えられ、てん茶は煎茶よりはるかに高値で取引される。輸出を念頭に有機栽培も広がり、県の調べでは茶の有機栽培面積は23年で799ヘクタールと10年前の倍以上だ。

 東製茶も面積拡大を進め、2年後には茶園の約半分の25ヘクタールで有機JAS認証を取得できる見込み。「有機だと有利に販売できる。手間はかかるが需要のある今がチャンス」と捉える。

■原料供給基地脱却を

 ただ、てん茶はあくまで原料だ。菊永組合長は「県内で抹茶にして売る力をつけないと、いずれ倉庫に眠ることになるのでは」と懸念する。てん茶工場の伸びに対し抹茶工場はほぼ増えておらず、現状は多くが県外で加工・販売される。

 20年に抹茶工場を操業した池田製茶(鹿児島市)は、米国向けを中心に年間60トン製造する。池田研太社長は「現地のパートナー企業の協力で販路を広げられた。売れるようになるまで時間がかかる」と話す。

 抹茶製造で後発の鹿児島は知名度も低い。一方で、池田社長は品種の多様さや有機栽培面積の広さは強みになるとして、ブランド化も可能とみる。原料供給基地にとどまっていては、煎茶の二の舞となりかねない。「鹿児島の抹茶」として、市場に切り込んでいく体制をつくれるかが課題となりそうだ。

 ■てん茶 蒸した後にもまずに乾燥させ、茎や葉脈を除いた茶葉。臼などでひいて抹茶にする。「せいめい」といった専用品種もあるが、やぶきたなど煎茶用品種でも生産できる。うま味や香りを引き出すために一定期間、葉に覆いをして遮光する。